糸リフトは、メスを使わずにたるみを改善できる手軽さから、ここ数年で急速に普及した美容医療のひとつです。一方で、施術を検討するなかで「やりすぎるとどうなるのか」「本数を入れすぎると不自然にならないか」という疑問や不安を持つ人も少なくありません。
こうした不安の多くは、「やりすぎ」の実態が曖昧なまま語られていることに起因しています。本数の問題なのか、施術間隔の問題なのか、それとも引き上げ方の問題なのか。定義が整理されていなければ、自分に合った判断基準を持つことも難しいでしょう。
ここでは、糸リフトのやりすぎを引き起こす3つの過剰パターンを起点に、起こりうる症状とそのリスク、部位・素材別の適正な本数と施術間隔、万が一の修正方法、失敗を防ぐクリニック選びの基準まで、医学的根拠を踏まえながら解説します。読み終えたとき、糸リフトの施術判断に必要な軸が一通り整理されているはずです。

国立熊本大学医学部を卒業。国内大手美容クリニックなどで院長を歴任し、2023年アラジン美容クリニックを開院。長年の実績とエイジングケア研究で博士号取得の美容医療のプロ。「嘘のない美容医療の実現へ」をモットーに、患者様とともに「オンリーワン」を目指す。
糸リフトの「やりすぎ」とは何か?本数・頻度・テンション、3つの過剰パターン
何本以上が多すぎるのか、どのくらいの間隔で受けるのが適切なのか、そもそも「引き上げすぎ」とはどういう状態なのか。これらの問いに対して明確な答えを持たないまま施術に臨むことは、判断を誤るリスクを高めます。実は「やりすぎ」には、大きく分けて3つのパターンがあります。
一度に入れる本数が多すぎること、施術間隔が短すぎること、そして引き上げテンションが強すぎることです。この3つは互いに独立した問題であり、どれか1つでも適正範囲を逸脱すれば、望まない結果につながりうるものです。
この章のポイント
・やりすぎは本数・間隔・テンションの3要素で起きる
・問題の本質は個人の適正値を超えること
・テンション過多は医師の技術判断に大きく依存する
過剰パターン①|一度に入れる本数が多すぎる
糸リフトの適正本数は、部位・たるみの程度・皮膚の状態によって個人差があります。一般的な目安として片側あたり3〜5本程度が標準的な範囲とされており、フェイスライン全体を対象とする場合でも両側合計8〜12本がひとつの基準として挙げられています。
ただしこの数値はあくまで参考値であり、「この本数が正解」という絶対的な基準は存在しません。個人の顔の状態によって適正値は変わるものです。
「やりすぎ」の本質は本数の絶対値ではない
注意すべきは、「やりすぎ」が本数の絶対値で定義されるわけではないという点です。問題の本質は、その人の顔の状態に対して適切な範囲を大幅に超える本数を挿入することにあります。
皮膚の厚みや皮下脂肪の量、たるみの深さを踏まえない本数設定は、一般的な基準内であってもその人にとっては過剰になりうることを理解しておく必要があります。こうした個別の診察を省いたまま「多く入れるほど効果が高い」という提案をするクリニックには、慎重に向き合うべきです。
本数過多がリスクを高める根拠
本数が増えるほど皮下組織への刺激量も増し、術後の腫脹や炎症が長引きやすくなることはデータからも読み取れます。Niu et al.(2021)が実施した26研究・2,827症例を対象としたメタアナリシスでは、腫脹が糸リフト後に最も頻度の高い合併症であり、その発生率は35%と報告されています。
このデータは糸リフト全般を対象としたものですが、施術量が多いほどリスクが高まると考えられており、過剰な本数設定はそのリスクをさらに押し上げる要因のひとつです。カウンセリングの場で本数の提案を受けた際は、医師が皮下組織の状態を丁寧に診たうえでの客観的な根拠が伴っているかどうかを確認することを勧めます。
過剰パターン②|施術間隔が短すぎる
最も広く使われているPDO(ポリジオキサノン)糸の場合、体内への完全吸収には概ね6〜8か月を要します。この吸収が完了する前に次の施術を行うことは、糸が残存している皮下組織に新たな刺激を加えることを意味します。
組織が十分に回復していない状態での追加施術は、慢性的な炎症や異物反応を引き起こすリスクがあり、こうした状態が長引くほど皮下組織への影響も大きくなります。
皮下組織が回復するまでのプロセス
皮下組織は施術後、糸の存在に反応して一時的な炎症を起こし、それを鎮静化しながらコラーゲンを産生するというプロセスをたどります。このサイクルが完了する前に再施術が加わると、組織への累積的な負担が増し、回復が長期化するケースがあります。
吸収性糸を使用した場合でも、このプロセスが十分に落ち着くまでには相応の時間が必要です。糸が吸収されることと、組織が完全に安定することは必ずしも同じタイミングではないという点も理解しておくと、施術間隔の判断がより適切になります。
「効果が薄れた」と感じたときに確認すべきこと
「効果が薄れてきた」と感じて短期間での再施術を検討する場合、その感覚の原因が糸の吸収によるものなのか、加齢の進行や体重変化によるものなのかを医師と丁寧に確認することが先決です。原因が加齢や生活習慣にある場合、糸を追加しても根本的な改善にはつながらないことがあります。
施術間隔の素材別の目安については第3章で整理しますが、少なくとも糸の吸収が完了する期間を基本的な基準とする考え方は、どの素材においても共通しています。自己判断での早期再施術は避け、医師の診察のもとで次の施術タイミングを決めることが適切です。
過剰パターン③|引き上げテンションが強すぎる
糸リフトにおける「テンション」とは、挿入した糸が皮下組織を引き上げる力の強さを指します。このテンションが適正範囲を超えると、皮下組織に過剰な張力がかかり、表情の動きに制限が生じます。笑ったときに頬が自然に動かない、口元の動作に違和感を感じるといった症状は、多くの場合このテンション過多が原因として考えられます。
いわゆる「不自然な顔」という印象は、本数の問題よりもこのテンション設定の判断ミスに起因しているケースが少なくありません。
筋肉と皮下組織の関係から見る「引きつれ」の仕組み
顔の表情は複数の筋肉が協調して動くことで成立しています。皮下組織に過剰な張力がかかった状態では、筋肉の収縮が皮膚の動きと連動しにくくなり、本来なめらかに動くべき組織が引きつるように見えます。
特に口角や頬の動きは繊細であり、わずかなテンションの過多でも表情の不自然さとして現れやすい部位です。この引きつれは施術直後に強く現れ、多くの場合1〜2か月程度で軽減しますが、テンションが大幅に過剰であった場合は長期化することもあります。
テンション設定は医師の技術に依存する
テンションの設定は、医師が施術中にリアルタイムで調整する技術的な判断であり、解剖学的な知識と施術経験に大きく依存します。患者側からコントロールできる要素ではないため、施術者の選択がこのリスクに直接影響します。
カウンセリング時に引き上げの方向や強さについて医師がどのように説明するかは、技術と経験を見極めるひとつの手がかりになります。「強く引き上げるほど効果が高い」という単純な説明にとどまる場合は、個別の顔の状態に対する配慮が不十分である可能性があります。
以下に3つの過剰パターンをまとめます。
| パターン | 定義 | 主な原因 | 代表的なリスク | 目安・基準 |
|---|---|---|---|---|
| 本数過多 | 個人の適正値を大幅に超える本数の挿入 | 個別診察を踏まえない本数設定 | 腫脹・炎症の長期化 | 片側3〜5本が一般的な標準範囲 |
| 間隔不足 | 前回の糸の吸収完了前の再施術 | 効果実感の低下による早期再施術 | 慢性炎症・異物反応 | PDOは吸収完了の6〜8か月を目安に |
| テンション過多 | 引き上げ力が組織の許容範囲を超えた状態 | 医師の技術・判断ミス | 表情の引きつれ・不自然さ | 施術者の経験・技術に依存 |
3つのパターンはそれぞれ独立した問題ですが、本数過多と間隔不足が重なるケースや、テンション設定と本数の両面に問題があるケースも実際には存在します。「やりすぎ」のリスクを正確に理解するには、この3要素を複合的に捉えることが必要です。
糸リフトをやりすぎるとどうなる? 論文データで見る症状とリスク
前章では、やりすぎを構成する3つのパターンを整理しました。では実際に過剰な施術を受けた場合、顔にはどのような変化が起きるのでしょうか。この章では、糸リフト後に報告されている具体的な症状とその発生率を、臨床データをもとに確認していきます。
症状の多くは一時的なものであり、時間の経過とともに軽減するケースが大半です。一方で、施術の過剰さや挿入層の不適切さが重なると、改善に時間がかかったり、外科的な対処が必要になる場合もあります。「起こりうること」を事前に知っておくことは、施術前の判断精度を上げるためにも、万が一の際に冷静に対処するためにも、意味のあることです。
この章のポイント
・腫脹・皮膚陥凹・糸の透見は発生率が論文で示されている
・50歳以上では皮膚陥凹のリスクが約3倍に上昇する
・ボリュームロスと引きつれは施術設計の問題として起きやすい
表情の引きつれ・不自然さ
糸リフト後の合併症のなかで、患者が最も気にしやすいのが表情の引きつれや不自然な動きです。笑ったときに片側の頬だけが動かない、口角の動作に違和感が残るといった状態が代表的で、施術直後から数日以内に現れることが多い症状です。
見た目の変化として周囲から気づかれやすく、心理的な負担も大きいため、リスクとして事前に把握しておく必要があります。
引きつれが起きる仕組み
顔の表情は、皮膚・皮下組織・筋肉が協調して動くことで成立しています。糸リフトはこの皮下組織に糸を挿入して引き上げる施術であるため、テンションが適正範囲を超えると、筋肉が収縮しようとする力と皮下の張力が拮抗し、本来なめらかに動くべき部位に制限が生じます。
頬や口角周辺はこの影響を受けやすく、わずかなテンション過多でも表情のぎこちなさとして現れやすい部位です。挿入層が浅すぎる場合にも同様の現象が起きやすく、テンションだけでなく挿入の精度も結果を左右しています。
改善までの見通し
多くの場合、引きつれは施術後1〜2か月程度で軽減します。これは皮下組織が新しい糸の位置に順応し、張力のバランスが整ってくるためです。
ただし、テンションが大幅に過剰であった場合や、挿入層に問題があった場合は改善が長引くことがあります。1か月を過ぎても日常生活に支障をきたす違和感が残る場合は、自然軽減を待つのではなく、施術を受けたクリニックへの相談を検討すべきです。
皮膚の凹凸・ボコつき(皮膚陥凹)
皮膚陥凹(スキンディンプリング)は、皮膚の表面に局所的なくぼみや凹凸が生じる状態です。Niu et al.(2021)のメタアナリシスでは、発生率は全体で約10%と報告されており、糸リフト後の合併症のなかで2番目に頻度の高いものです。
なお、50歳以上の患者では発生率が16%と有意に上昇し、50歳未満の5.6%と比較して約3倍の差があることも同研究で示されています。年齢が高くなるほど皮膚が薄くなり、皮下組織の状態も変化するため、施術前の丁寧な診察がより重要になります。
皮膚陥凹が起きる主な原因
主な原因は挿入深度の不均一さと、コグ(糸についた返し)が皮膚の浅い層に引っかかることです。コグが表皮に近い層を捉えると、皮膚が内側に引き込まれてくぼみとして見えるようになります。
皮膚が薄い人や皮下脂肪が少ない人は、こうした影響が表面に出やすい傾向があります。年齢が上がるほどリスクが高まるのも、加齢に伴う皮膚の薄化や皮下組織の変化が影響していると考えられます。
対処と改善の見通し
施術直後から数日以内に発生することが多く、軽度であれば医師によるマッサージや用手的な処置で改善するケースが大半です。Li et al.(2021)が中国の190症例を対象に行った分析では、皮膚陥凹と輪郭不整の多くがマッサージによる手技で改善したと報告されています。
一方で、深部組織への影響が大きい場合や放置によって固定化した場合は、外科的な対処が必要になることもあります。気になる凹凸が1か月以上改善しない場合は、早めに施術クリニックへ相談することが適切です。
頬のボリュームロス・老け見え
糸リフトによるリフトアップは、組織を上方向に移動させることで輪郭の引き上げ効果をもたらします。しかしリフトベクター(引き上げる方向)の設定が適切でない場合、脂肪コンパートメントが不自然な位置に移動し、むしろ頬がこけた印象を生み出すことがあります。
たるみを改善しようとした結果、頬骨が強調されて老けて見えるという逆説的な結果が生じるのは、過剰施術のなかでも特に注意が必要な症状のひとつです。
なぜボリュームロスに見えるのか
顔の若々しさは、頬の丸みや脂肪の適切な配置によって支えられています。糸リフトで皮下組織を引き上げすぎると、本来頬の丸みを形成していた脂肪が上方に偏って分布し、頬下部から口元にかけての領域がやせて見えるようになります。
さらに頬骨上部にボリュームが集中することで、骨格の凸凹が強調され、加齢を逆に際立たせる結果になりえます。こうした状態はヒアルロン酸などによるボリューム補正が選択肢になる場合もありますが、根本的には施術設計の段階で防ぐべき問題です。
適切なリフトベクターの重要性
ボリュームロスを防ぐには、単に「引き上げる」ことではなく、「どの方向にどの程度引き上げるか」という設計が施術の質を決定します。
顔の解剖学的な構造を理解したうえで、脂肪コンパートメントの動きを予測しながらベクターを決定できる医師かどうかは、カウンセリングの質から見極める必要があります。引き上げ後の顔のバランスについて具体的な説明がされるかどうかは、施術者の技術水準を判断するひとつの基準になります。
糸の透け・触知(スレッドビジビリティ)
糸の透見・触知とは、挿入した糸が皮膚の表面から視認できたり、触れると皮下に糸の存在を感じたりする状態です。Niu et al.(2021)では、この合併症の発生率は約4%と報告されています。
この数値は吸収性・非吸収性糸を含むすべての糸種の集計値であり、非吸収性糸では発生率が高い傾向があることも同研究で示されています。現在の主流である吸収性糸(PDO・PLLA・PCLなど)では相対的にリスクは低いものの、挿入条件によっては発生しえます。
発生しやすい条件と経過
皮膚が薄い部位や皮下脂肪が乏しい人では、糸が表皮に近い層に挿入された際に透けて見えやすくなります。また、挿入時に糸が折れ曲がったり、想定より浅い層に収まった場合も視認されやすくなります。吸収性糸の場合、時間の経過とともに糸が分解されるに従い透見・触知が軽減するケースが大半です。
ただし感染を伴う場合は、糸が皮膚を突き破って露出するリスクもあるため、赤みや熱感・痛みが伴う場合は早急な受診が必要です。以下に、各症状の発生率と概要をまとめます。
| 症状 | 発生率 | 主な原因 | 自然改善の見通し |
|---|---|---|---|
| 腫脹(むくみ・腫れ) | 35% | 組織への刺激反応(術後の一般的な反応) | 多くは数日〜1週間程度で軽減 |
| 皮膚陥凹(凹凸・ボコつき) | 10%(50歳以上では16%) | 挿入深度の不均一さ、コグの浅層への引っかかり | 軽度はマッサージで改善。重度は外科的対処の場合も |
| 錯感覚(しびれ・感覚異常) | 6% | 挿入時の神経周辺への刺激 | 多くは数週間〜数か月で軽減 |
| 糸の透け・触知 | 4% | 浅い挿入層、皮膚の薄さ | 吸収性糸は経時的に軽減。感染を伴う場合は要受診 |
| 感染 | 2% | 不適切な衛生管理、施術後のケア不足 | 抗生剤での対処が基本。重症時は糸の除去が必要 |
| 表情の引きつれ・不自然さ | ※個別集計なし | テンション過多、挿入層の不適切さ | 多くは1〜2か月で軽減。長期化する場合は要相談 |
| 頬のボリュームロス・老け見え | ※個別集計なし | リフトベクターの不適切な設定 | ヒアルロン酸等での補正が選択肢になる場合がある |
※発生率はNiu et al.(Aesthetic Plast Surg. 2021;45:2148–2158)のメタアナリシス(26研究・2,827症例)による。表情の引きつれ・ボリュームロスについては同論文での個別集計がないため、臨床報告をもとに記載。
ここで挙げた症状のいずれも、適切な施術設計と経験ある医師のもとで受けることで、リスクを大幅に低減できるものです。
やりすぎを防ぐための適正本数・施術間隔と糸の種類別ガイド
前章では、過剰施術が引き起こす症状とそのリスクを確認しました。では、やりすぎを防ぐための具体的な基準はどこに置けばよいのでしょうか。この章では、部位別の適正本数の目安、素材ごとの吸収期間と推奨施術間隔、さらに糸リフトと代替施術の客観的な比較まで、判断の軸となる情報を整理します。
これらの数値はあくまで目安であり、個人の皮膚状態やたるみの程度によって適正値は変わります。ただし、目安を知っておくことで、カウンセリング時に医師の提案内容を評価する基準が生まれます。「この提案は適切な範囲内か」を自分で判断できるようになることが、この章の目的です。
この章のポイント
・部位別の本数目安を知ることでカウンセリングの判断軸になる
・糸の素材によって吸収期間と推奨間隔は大きく異なる
・代替施術との比較で自分に合った選択肢を見極められる
部位別の適正本数の目安
糸リフトの適正本数は、施術部位とたるみの程度によって異なります。多くのクリニックで採用されている一般的な目安として、ほうれい線周辺であれば片側3〜4本(両側6〜8本)、フェイスラインであれば片側3〜5本(両側6〜10本)が標準的な範囲とされています。
全顔を対象とする場合は両側合計8〜12本程度が目安として挙げられることが多いですが、たるみの程度や使用する糸の種類によっては、これを上回る本数が必要になるケースもあります。
本数の絶対値よりも「根拠」を確認する
繰り返しになりますが、本数の適正値は絶対的なものではありません。皮膚の厚み・皮下脂肪の量・骨格の構造・たるみの深さによって、同じ部位でも必要な本数は変わります。
カウンセリングで提案された本数に対して「なぜこの本数なのか」を医師に問い、納得できる根拠が示されるかどうかを確認することが、やりすぎを防ぐための実践的な方法です。根拠のない本数提案や、過剰に多い本数を勧めるクリニックに対しては、セカンドオピニオンを検討する価値があります。
糸の種類と吸収期間・推奨施術間隔
現在の糸リフトで主に使用される吸収性糸は、PDO・PLLA・PCLの3種類です。それぞれ素材の化学的特性が異なり、体内での吸収にかかる時間、リフトアップ効果の持続期間、次回施術までの推奨間隔がそれぞれ異なります。この違いを理解せずに施術間隔を決めることは、意図せず「やりすぎ」につながる原因になりえます。
PDO(ポリジオキサノン)
PDOは糸リフトで最も広く使われている素材です。体内への完全吸収には概ね6〜8か月を要し、吸収後もコラーゲン産生による組織の引き締め効果がしばらく続きます。効果の持続期間は6か月〜1年程度が一般的な目安とされています。吸収が比較的早く、初めての糸リフトに選ばれやすい素材です。次回施術の推奨間隔は、吸収完了を基準に6〜12か月が目安となります。
PLLA(ポリ乳酸)
PLLAはPDOよりも吸収が遅く、体内での完全吸収に約12〜18か月かかります。吸収期間が長い分、コラーゲン刺激が持続する期間もPDOより長く、効果の持続期間は1〜2年程度と報告されています。即効性よりも長期的な改善を期待する場合に選択されやすい素材です。推奨施術間隔は12〜18か月が目安となります。
PCL(ポリカプロラクトン)
PCLは3種類のなかで最も吸収が遅い素材で、完全吸収には約1〜2年かかります(Cho et al., 2021)。吸収が緩やかなため長期間にわたる組織サポートが可能であり、効果の持続期間は1.5〜2年程度とされています。継続的なコラーゲン産生効果が3素材のなかで最も長いという研究報告もあります。推奨施術間隔は18〜24か月が目安です。
以下に3素材の特性をまとめます。
| 素材 | 吸収期間 | 効果持続期間 | 推奨施術間隔 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| PDO(ポリジオキサノン) | 約6〜8か月 | 6か月〜1年程度 | 6〜12か月 | 最も普及。コスト抑えやすく初回に選ばれやすい |
| PLLA(ポリ乳酸) | 約12〜18か月 | 1〜2年程度 | 12〜18か月 | コラーゲン刺激が長期持続。長期的改善を期待する場合に |
| PCL(ポリカプロラクトン) | 約1〜2年 | 1.5〜2年程度 | 18〜24か月 | 3素材中最長の吸収期間。長期サポートと持続的コラーゲン産生が特徴 |
※吸収期間はCho et al.(J Cosmet Dermatol. 2021;20:2743–2749)をもとに記載。効果持続期間・推奨施術間隔は複数の臨床報告を参考にした目安であり、個人差がある。
なお、吸収性糸については「吸収が完了すれば糸は残らない」と認識されることが多いですが、PDO以外の素材については製品によっては吸収が報告より遅くなる場合もあるという指摘もあります。使用予定の糸の素材について、カウンセリングで医師から具体的な説明を受けておくことが安心につながります。
代替施術との比較で考える選択肢
糸リフトはたるみ改善の選択肢のひとつに過ぎません。自分の状態に対して糸リフトが本当に適しているかどうかを判断するには、代替施術との客観的な比較が助けになります。主な選択肢として、非侵襲的なHIFU(ハイフ)と、持続性の高い切開リフトを取り上げます。
HIFU(ハイフ)との比較
HIFUは超音波エネルギーを皮下の深い層に照射し、組織の引き締めとコラーゲン産生を促す非侵襲的な施術です。針や糸を使わないため、皮膚への直接的なダメージが少なく、ダウンタイムがほぼないことが特徴です。
引き上げ効果は糸リフトと比べて穏やかであり、即効性よりも継続的な引き締めを求める場合に向いています。費用は機種・照射範囲によって異なりますが、1回あたり3〜10万円程度が一般的な目安です。半年〜1年に1回のペースで受けるケースが多く、初めてのたるみ治療や、施術痕を残したくない人に選ばれやすい選択肢です。
切開リフト(フェイスリフト)との比較
切開リフトは耳前部などを切開し、皮膚とSMAS(表在性筋膜)を直接引き上げて固定する外科的手術です。たるみの根本原因に直接アプローチできるため、3つの選択肢のなかで最も高い効果と持続性を持ちます。
効果の持続は術式によって異なりますが、5〜10年以上にわたることが一般的です。費用は術式・クリニックにより大きく異なり、ミニリフトで50万円前後から、フルフェイスリフトでは150〜200万円超まで幅があります。ダウンタイムは術後2〜4週間程度を要することが多く、日常生活への影響を考慮した計画が必要です。
以下に3施術の特性を比較します。
| 施術 | 即効性 | 効果持続 | ダウンタイム | 主な適応 |
|---|---|---|---|---|
| 糸リフト | あり(即日〜数日) | 6か月〜2年程度(素材による) | 数日〜1週間程度 | 軽〜中等度のたるみ。ダウンタイムを抑えたい場合 |
| HIFU(ハイフ) | 緩やか(1〜3か月で実感) | 6か月〜1年程度 | ほぼなし | 軽度のたるみ。初めての治療・非侵襲を希望する場合 |
| 切開リフト | あり(術後安定後) | 5〜10年以上 | 2〜4週間程度 | 中〜重度のたるみ。長期的な効果を重視する場合 |
糸リフトが適しているのは、ダウンタイムを短く抑えたい、軽〜中等度のたるみに対してアプローチしたいというケースです。一方、重度のたるみに対して糸リフトで効果を求めようとすると、本数を増やしすぎるという過剰施術につながりやすくなります。
自分のたるみの程度が糸リフトの適応範囲内かどうかを医師と確認することは、やりすぎを防ぐうえでも重要な判断ポイントです。
万が一やりすぎてしまったら|修正方法と失敗しないクリニック選び
ここまでの章で、やりすぎの定義・症状・適正な施術基準を整理してきました。この章では視点を変えて、すでに施術を受けており「もしかしたらやりすぎかもしれない」と感じている場合の対処法と、そもそも失敗を生まないためのクリニック・医師選びの基準を取り上げます。
不安を感じている場合に最も避けるべきは、自己判断で放置することと、焦って別のクリニックで追加施術を行うことです。まず現状を正確に把握し、適切な順序で対処することが、回復への最短経路になります。
この章のポイント
・吸収性糸の多くは経過観察で改善する可能性がある
・クリニック選びは資格・症例数・説明の質の3軸で判断する
・カウンセリングで確認すべき5つの質問を持参する
やりすぎてしまった場合の修正方法
糸リフト後に引きつれ・凹凸・ボリュームロスなどの症状が気になる場合、まず確認すべきは「症状がいつから続いているか」と「施術から何か月経過しているか」の2点です。症状の種類と経過期間によって、適切な対処の選択肢が異なります。
経過観察(吸収性糸の場合)
現在の糸リフトで主流となっている吸収性糸(PDO・PLLA・PCL)を使用した場合、施術直後から数か月以内に現れる軽度の引きつれや凹凸の多くは、糸の張力が皮下組織に馴染むにつれて自然に軽減していきます。特に施術後1〜2か月以内であれば、経過観察が第一の選択肢になることがほとんどです。ただし、「いずれ溶けるから大丈夫」という楽観的な判断で長期間放置することは適切ではなく、症状の変化を定期的に確認しながら医師の指示のもとで経過をみることが前提です。
糸の抜去・除去
症状が施術後2か月以上経過しても改善しない場合や、感染・痛みを伴う場合は、糸の抜去・除去が検討される場合があります。吸収性糸であっても、挿入直後から数週間以内であれば比較的取り出しやすく、時間が経つほど組織との癒着が進み除去が難しくなる傾向があります。除去の可否や方法は糸の種類・経過時間・症状の程度によって異なるため、自己判断で対処しようとするのではなく、まず施術を受けたクリニックに相談することが原則です。
ヒアルロン酸・ボトックスによる補正
過剰なリフトアップによって頬のボリュームロスが生じた場合や、局所的な凹凸が残存する場合は、ヒアルロン酸注入による補正が選択肢として検討されることがあります。くぼんだ部分にボリュームを補うことで、全体のバランスを整える目的で用いられます。また、引きつれが長期化している場合は、ボトックスによる筋肉への作用で張力の不均衡を緩和する方法が取られるケースもあります。いずれも根本的な解決策というよりは補助的な位置付けであり、症状の原因を正確に把握したうえで検討すべき選択肢です。
やりすぎを防ぐクリニック・医師選びのチェックポイント
修正方法と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが、最初の施術で失敗を生まないためのクリニック選びです。美容医療は自由診療であるため、クリニックや医師の質にばらつきがあります。以下のポイントを基準にして、複数のクリニックを比較検討することを勧めます。
専門資格と実績の確認
医師の専門性を客観的に判断する基準として、日本形成外科学会専門医・日本美容外科学会専門医(JSAPS)などの資格の有無が一つの指標になります。これらの資格は取得に一定の経験と審査が必要であり、資格の有無によって技術水準を保証するわけではありませんが、専門的な訓練を受けているかどうかの目安になります。また、糸リフトの症例数と症例写真の充実度も確認しておきたい点です。症例写真が豊富なクリニックは、術前術後の変化を具体的にイメージする材料を提供してくれます。
カウンセリングの質で医師を見極める
どれだけ資格や実績があっても、カウンセリングの内容が表面的なクリニックは避けるべきです。具体的には、本数提案に対する根拠の説明があるか、リスクについて過小評価せずに説明しているか、患者の質問に対して丁寧に回答しているかを確認します。「多く入れるほど効果が高い」「副作用はほとんどない」といった断定的な説明が多い場合は注意が必要です。不安や疑問を率直に伝えたときの医師の反応は、その医師の姿勢を見極める有効な機会になります。
アフターフォロー体制と保証制度
施術後に問題が生じた場合の対応体制があるかどうかも、クリニック選びの重要な基準です。修正対応や経過観察の診察が保証制度として明示されているクリニックは、施術後のリスクを想定して体制を整えているといえます。一方、施術後の対応について明確な説明がないクリニックでは、問題が生じた際に適切なサポートを受けられない可能性があります。契約前に保証の範囲と条件を必ず確認しておくことが必要です。
カウンセリングで確認すべき5つの質問
クリニックを訪れる前に、以下の5つの質問を準備しておくことを勧めます。これらはカウンセリングの場で医師の対応を見極めるための具体的な確認事項であり、施術の判断基準を整えるうえでも役立ちます。
- 私の顔の状態に対して、適正な本数は何本か。その根拠を教えてほしい
- 使用する糸の素材は何か。その吸収期間の目安はどのくらいか
- 次回の施術はいつ頃が適切か
- 想定されるリスクと、万が一の場合の対応方針はどうなっているか
- 糸リフト以外の選択肢として、どのような施術が考えられるか
この5つに対して医師が明確かつ丁寧に答えられるかどうかは、そのクリニックへの信頼を判断する材料になります。曖昧な回答や、質問をかわすような対応が続く場合は、別のクリニックでのカウンセリングを検討することが適切です。複数のクリニックを比較することに遠慮は不要です。セカンドオピニオンは、美容医療においても有効な自己防衛の手段です。
以下に、クリニック選びの主なチェックポイントをまとめます。
| 確認項目 | 確認内容 | 注意すべきサイン |
|---|---|---|
| 専門資格 | 形成外科・美容外科の専門医資格の有無 | 資格の記載がない、または確認を求めても明示されない |
| 症例実績 | 糸リフトの症例数・症例写真の充実度 | 症例写真が少ない、または術前術後の比較がわかりにくい |
| カウンセリングの質 | 本数の根拠説明・リスク説明の丁寧さ | 断定的な効果説明・リスクの過小評価・質問への曖昧な回答 |
| アフターフォロー | 修正対応・術後診察の保証内容 | 施術後の対応について明確な説明がない |
| 費用の透明性 | 追加費用の有無・総額の明示 | カウンセリング後に追加オプションが次々と提示される |
万が一の修正方法を知っておくことは大切ですが、最善の対処は「修正が必要な状態を最初から作らないこと」です。この章で整理したチェックポイントを持参し、まず1〜2件のクリニックでカウンセリングを受けて比較してみてください。複数の医師の説明を聞き比べることで、提案内容の妥当性を判断する目が自然と養われます。
まとめ
糸リフトの「やりすぎ」とは、本数・施術間隔・引き上げテンションのいずれかが、個人の顔の状態に対して適正な範囲を逸脱した状態を指します。本文で触れたように、腫脹・皮膚陥凹・糸の透見といった合併症は糸リフト全般に存在するリスクであり、過剰な施術はそのリスクをさらに高め、たるみ改善の目的とは逆行する結果につながりかねません。
一方、使用する素材と本数を適切に選び、十分な施術間隔を守ったうえで経験豊富な医師のもとで受ければ、こうしたリスクは大幅に抑えられます。カウンセリングで問われるべきことは費用や本数だけではなく、医師がリスクを含めた根拠ある説明をしているかどうかです。提案内容に疑問を感じた場合は、複数クリニックでの比較検討やセカンドオピニオンも有効な選択肢です。
自分の肌状態に対して何が最適かは、最終的には専門医との対話のなかで見えてくるものです。当院では無料カウンセリングで一人ひとりの肌の状態やご要望をじっくり確認したうえで、最適な施術プランをご提案しています。気になることがあれば、まずは相談からお気軽にどうぞ。
アラジン美容クリニックでは、美容医療および美容皮膚における長年の経験や博士号を持つ知見より、出逢う皆様のお一人ひとりに最適な施術を提供する「オンリーワン」を目指すカウンセリングを実施し、余計な情報や提案をせず、「ウソのない」美容医療で、必要な施術のみをご提案しております。
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参考文献・出典
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