鏡を見て「シミ取りをしたのに、かえって黒くなった気がする」「テープを貼らなくて本当に大丈夫なのか」と、不安な気持ちでスマホを検索していませんか。実は、シミ取り治療の成功率を左右するのは、クリニックでのレーザー照射が5割、そしてご自宅での「シミ取り後 ケア」が残りの5割だと言われています。
特に、近年主流のピコレーザーなどはテープ不要のケースも増えていますが、そこで油断して患部を乾燥させたり、自己流の洗顔で摩擦を与えたりすることは、予後を悪化させる最大の原因です。
ここでは、レーザー照射後の肌に起きているマイクロクラストの正常な経過から、1962年の論文でも証明されている「湿潤療法」の重要性、そして1ヶ月後に訪れるかもしれない「戻りジミ」への医学的に正しい対処法までを網羅しました。一時的なダウンタイムを不安なく過ごし、理想のクリアな素肌を手に入れるための、ロードマップをお渡しします。

国立熊本大学医学部を卒業。国内大手美容クリニックなどで院長を歴任し、2023年アラジン美容クリニックを開院。長年の実績とエイジングケア研究で博士号取得の美容医療のプロ。「嘘のない美容医療の実現へ」をモットーに、患者様とともに「オンリーワン」を目指す。
なぜ黒くなるのか シミ取り後の経過と肌内部のメカニズム
シミ取りレーザー治療を受けた直後、多くの患者が最初に直面するのは、患部の色が施術前よりも濃く、黒っぽく変化するという現象です。鏡を見て不安に駆られることもありますが、これは治療が失敗したわけではなく、むしろレーザーがターゲットであるメラニン色素に正しく反応し、破壊された色素が皮膚の表面へと排出されようとしている正常な経過と言えます。
肌の内部では破壊された組織の修復と再生が急ピッチで行われており、この時期の過ごし方が最終的な仕上がりの美しさを左右するといっても過言ではありません。ここでは、施術後の肌に現れる黒い変化の正体であるマイクロクラストの形成プロセスや、使用するレーザー機器による経過の違い、そして避けるべき行動について、皮膚科学的な観点から詳しく解説します。
レーザー照射後に形成されるマイクロクラストの正体
レーザー治療において、患部が黒く変化する主な要因は、マイクロクラストと呼ばれる微細なかさぶたの形成にあります。医療用レーザーは、特定の波長の光を照射することで、皮膚内部にある過剰なメラニン色素のみを選択的に破壊します。この際、強力な熱エネルギーや衝撃波を受けたメラニン色素は細かく粉砕され、皮膚のターンオーバー(代謝)に乗って徐々に表面へと押し上げられていきます。
この押し上げられた色素の残骸が、皮膚表面で固まったものがマイクロクラストです。一般的な怪我による分厚いかさぶたとは異なり、非常に薄く、細かい点状や薄い膜状に見えることが特徴です。したがって、施術後にシミが濃く浮き出てきたように見えるのは、治療がしっかりと反応している証拠、すなわちグッドサインと捉えることができます。
マイクロクラストは、下の新しい皮膚ができあがるまでの間、患部を外部の刺激から守る天然の保護テープのような役割も果たしています。通常、個人差はありますが、顔の皮膚であれば照射から1週間から10日程度で、洗顔や入浴の際に自然と剥がれ落ちていくのが一般的な経過です。この期間中は、無理に触れず、自然な脱落を待つ姿勢が求められます。
ピコレーザーとQスイッチレーザーにおける経過の違い
シミ取り治療に使用される機器は、大きく分けて従来のQスイッチレーザーと、近年主流となりつつあるピコレーザーの2種類が存在します。どちらもメラニン色素を破壊するという目的は同じですが、照射時間の長さ(パルス幅)や色素を破壊するメカニズムが異なるため、施術後のダウンタイムや肌の状態にも差異が生じます。
Qスイッチレーザー
Qスイッチレーザーは、ナノ秒(10億分の1秒)単位の照射時間で、主に熱作用によってメラニンを破壊します。熱エネルギーが周囲にも伝わりやすいため、比較的しっかりとした厚みのあるかさぶたが形成されやすく、施術後は保護テープによる被覆が1週間から10日ほど必須となるケースが多く見られます。
ピコレーザー
一方、ピコレーザーはピコ秒(1兆分の1秒)という極めて短い時間で照射し、熱ではなく衝撃波(光音響効果)でメラニンを微粒子レベルまで粉砕します。周囲の組織への熱ダメージが最小限に抑えられるため、かさぶたができても非常に薄い膜状や黒ゴマ状にとどまることが多く、また場合によっては肉眼ではかさぶたが確認できないほど薄いこともあります。そのため、保護テープを必要とせず、軟膏のみで経過観察とするクリニックも増えています。
自身の受ける施術、あるいは受けた施術がどちらのタイプか把握しておくことで、経過への不安を軽減できるでしょう。以下に一般的な特徴の比較を整理しました。
| 項目 | ピコスポット | Qスイッチレーザー |
|---|---|---|
| 破壊の仕組み | 衝撃波による粉砕 | 熱エネルギーによる破壊 |
| かさぶたの状態 | 薄い膜状、または黒ゴマ状 | 比較的厚みのあるしっかりした状態 |
| テープ保護 | 多くの場合で不要(軟膏のみ) | 7〜10日間必須 |
| 炎症後色素沈着(PIH)リスク | 低減傾向(約10-20%前後とされる) | 比較的高い(約30-50%前後とされる) |
※上記のリスク頻度等は複数の臨床研究に基づく一般的な目安であり、患者のスキンタイプ(肌色)や照射出力によって変動します。
絶対に避けるべき行動 無理な剥離が招くリスク
かさぶたやマイクロクラストができると、どうしても気になって触ってしまったり、洗顔の際につい剥がしてしまいたくなる衝動に駆られるかもしれません。しかし、自然に剥がれる前に物理的な力を加えて無理に剥がす行為は、シミ取り治療において最も避けるべきNG行動です。
かさぶたの下では、新しい表皮細胞が急ピッチで再生されています。準備が整っていない段階でかさぶたを剥がしてしまうと、未熟な表皮が外界にさらされることになります。未熟な皮膚はバリア機能が低く、紫外線や摩擦などの刺激に対して非常に脆弱です。
その結果、肌は自らを守ろうとする防御反応として、再びメラニン色素を過剰に生成し始めます。これが、一度取れたはずのシミが再び濃く現れる炎症後色素沈着(戻りジミ)の大きな原因の一つとなり得ます。また、深く傷つけてしまった場合は、色素沈着だけでなく、凹みなどの瘢痕(傷跡)として残ってしまうリスクも否定できません。
洗顔時は指の腹で優しく泡を転がす程度にとどめ、タオルで拭く際もこすらずに水分を押さえるだけにしてください。かさぶたが自然に取れるその瞬間まで、触らない勇気を持つことが、美しく仕上げるための最短ルートといえるでしょう。
戻りジミを防ぐための湿潤維持と徹底した摩擦防止
レーザー治療によってメラニン色素が破壊された後の皮膚は、一時的にバリア機能が著しく低下し、軽微なやけどを負ったような非常にデリケートな状態にあります。この時期に適切な処置を行えるかどうかが、色素沈着(戻りジミ)を回避し、理想的な仕上がりを得られるかの分かれ道となります。
ここで重要となるキーワードは、湿潤と摩擦防止の2点です。傷ついた組織を早くきれいに治すためには、患部を乾燥させない湿潤環境を保つこと、そして物理的な刺激を極限まで排除することが求められます。本章では、創傷治癒の医学的根拠に基づいたケア方法と、日常生活で無意識に行ってしまいがちな摩擦リスクの回避方法について解説します。
科学的に証明された湿潤療法の有効性とワセリンの役割
かつて傷の処置といえば、消毒して乾燥させ、かさぶたを作って治す方法が一般的でした。しかし、現代の形成外科や皮膚科領域においては、傷を乾かさずに治す湿潤療法(モイストヒーリング)が標準的な治療概念として定着しています。この転換点となったのが、1962年にGeorge D. Winter博士が科学雑誌『Nature』に発表した研究です。この研究により、創傷部位を被覆材で覆い湿潤環境を保った方が、乾燥させた場合よりも上皮化(皮膚の再生)が約2倍速く進むことが実証されました。
シミ取り後の肌ケアにおいても、この理論は同様に適用されます。レーザー照射後の皮膚は水分を保持する力が弱まっているため、そのまま放置すると急速に乾燥が進み、治癒が遅れるだけでなく、炎症が長引く原因となり得ます。
そのため、かさぶたが完全に形成されて自然に剥がれ落ちるまでの期間は、高機能な美容液や化粧水を与えることよりも、物理的に水分の蒸発を防ぐことが最優先事項となります。
具体的には、処方された軟膏や市販の白色ワセリンなどを患部に塗布し、人工的な皮脂膜を作って密閉します。ワセリン自体には傷を治す薬効成分は含まれていませんが、外部の刺激を遮断し、肌が自ら治ろうとする滲出液(細胞成長因子を含む体液)を患部に留めることで、スムーズな再生を促す強力なサポーターとなります。
常に患部がしっとりと潤っている状態を維持することが、きれいな仕上がりへの近道といえるでしょう。
紫外線と同等に警戒すべき摩擦によるメラノサイトへの刺激
シミ取り後のケアにおいて、多くの患者が日焼け止めによる紫外線対策には熱心に取り組みますが、プロフェッショナルがそれと同等、あるいはそれ以上に警戒するのが物理的な摩擦による刺激です。
皮膚には、物理的な刺激を受け続けると、防御反応としてメラニン色素を生成し、皮膚を厚く黒くしようとする性質があります。これはナイロンタオルなどで体を強くこすり続けた部位が黒ずむ摩擦黒皮症と同様の原理です。
レーザー照射後の皮膚は、目に見えないレベルで微弱な炎症が残っている状態です。そこに洗顔時の手でこする動作や、マスクの着脱、タオルでの拭き取りといった摩擦刺激が加わると、炎症が悪化し、メラニンを作り出す細胞であるメラノサイトが過剰に活性化されてしまいます。その結果、せっかくレーザーでシミを破壊したにもかかわらず、自身の防御反応によって再び強い色素沈着(戻りジミ)を引き起こしてしまうケースが少なくありません。
特に肝斑の素因がある方や、日本人のようにメラニン活性が高い肌質の方は、わずかな摩擦でも色素沈着につながりやすいため、細心の注意が必要です。紫外線は日焼け止めや帽子で防ぐことができますが、摩擦は無意識の生活習慣の中に潜んでいるため、意識的に行動を変える必要があります。
徹底的な摩擦防止を実現する具体的なスキンケア手法
摩擦によるトラブルを防ぐためには、皮膚に触れるあらゆる動作において、指紋が肌を感じないレベルの優しさを徹底する必要があります。具体的なスキンケアの場面において、以下のポイントを意識してください。
まず洗顔に関しては、洗顔料を十分に泡立て、手と顔の肌の間に分厚い泡のクッションを作ることが基本です。手のひらが直接肌に触れないよう、泡の弾力だけで汚れを浮き上がらせるイメージで洗います。特にレーザー照射部位は指でくるくると洗うことは避け、泡を乗せるだけにするのが賢明です。すすぎの際も、シャワーを直接顔に当てるのではなく、ぬるま湯を手ですくい、肌をこすらないように優しく洗い流します。
洗顔後の水分拭き取りも重要なポイントです。タオルでゴシゴシと拭くのではなく、清潔なタオルや使い捨てのペーパータオルを肌に優しく押し当て、水分を吸わせるようにします。スキンケア製品や軟膏を塗布する際も同様に、擦り込む必要はありません。お豆腐を撫でるような、あるいは赤ちゃんの肌に触れるような繊細な力加減で、優しく乗せるように塗布してください。
日々の何気ない動作において、徹底的に皮膚を動かさない、こすらないという意識を持つことが、シミ取り治療の成功率を高める重要な鍵となります。
シミ取り後のケアに最適な市販用品の選び方 成分を見極める賢い選択
レーザー治療を受けた後、クリニックで推奨される高価なドクターズコスメをシリーズですべて揃えなければならないとプレッシャーを感じるケースは少なくありません。
もちろん、それらの製品は治療経過に合わせて設計されており優秀ですが、予算や通院の都合ですべてを継続することが難しい場合もあります。また、近隣のドラッグストアで手軽に入手できるアイテムで代用したいと考えるのは自然なことです。
結論から述べれば、正しい知識を持って製品を選定できるのであれば、市販品を活用しても全く問題ありません。重要なのは、パッケージの高級感やブランドイメージではなく、配合されている有効成分が現在の肌状態に適しているかどうかです。ここでは、市販品を選ぶ際の医学的な基準と、時期ごとに取り入れるべき成分について解説します。
肌細胞が認識するのはブランドではなく化学構造
私たちが化粧品を選ぶ際、ブランドの知名度や価格、あるいは「奇跡の成分」といった宣伝文句に心を動かされがちです。しかし、生物学的な視点に立てば、皮膚の細胞にはブランドロゴを識別する目は備わっていません。細胞表面にある受容体が認識し、反応するのは、あくまで物質としての化学構造のみです。
つまり、クリニック専売品であっても、近所のドラッグストアで売られている数千円の製品であっても、例えばトラネキサム酸という分子構造が含まれていれば、細胞レベルでは同様の抗炎症作用やメラニン抑制シグナルを受け取ることになります。
もちろん、製剤技術による浸透率の違いや、基剤(ベースとなる成分)の品質による使用感の差は存在しますが、基本的な薬理作用や保湿機能に関しては、市販品(特に医薬部外品として承認されたもの)でも十分な効果を期待できます。したがって、クリニック専売品を使わないことに罪悪感や不安を抱く必要はありません。
むしろ、継続可能な価格帯の製品を選び、規定量を惜しみなく使い続けることの方が、スキンケアの結果としては良好になるケースも多々あります。成分表示を読み解く知識を身につけることで、コストパフォーマンスの高い、賢いシミ取り後ケアが可能になります。
時期別に変化する推奨成分と避けるべき刺激
シミ取り治療後の肌は、時間経過とともに劇的に状態が変化します。そのため、ケアに必要な成分も「直後」と「回復後」では全く異なります。肌の状態に合わない成分を使用することは、かえってトラブルの原因となるため、時期に応じた使い分けが必須です。
まず、レーザー照射直後からかさぶたが剥がれるまでの期間は、肌が傷ついている状態です。この時期の最優先事項は保護と抗炎症であり、積極的な美白成分や活性の高い成分は刺激となり得るため避けるのが賢明です。一方、かさぶたが剥がれてピンク色の肌が現れた後は、戻りジミを防ぐために美白成分やバリア機能を強化する成分を積極的に取り入れる時期となります。
以下に、時期ごとに推奨される成分と、その役割を整理しました。製品選びの際の参考にしてください。
| 時期 | 目的 | 推奨される成分・製品 | 避けるべき成分・注意点 |
|---|---|---|---|
| 直後〜かさぶた期(約1週間) | 患部の保護炎症の鎮静 | 白色ワセリン(密閉・保護)グリチルリチン酸ジカリウム(抗炎症)アラントイン(組織修復) | 高濃度ビタミンCレチノール(ビタミンA)アルコール(エタノール)ピーリング成分(AHA/BHA) |
| かさぶた剥離後〜(維持期) | メラニン抑制遮光バリア機能強化 | トラネキサム酸(抗炎症・美白)セラミド(保湿・バリア機能)ナイアシンアミド(美白・シワ改善)紫外線散乱剤(ノンケミカル) | 個人の肌質によるが、刺激を感じる場合は強い美白剤の使用を控える |
特に注意が必要なのは、かさぶたがある時期の高機能美容液の使用です。「早く治したい」という焦りから、高濃度のビタミンCやレチノールなどを塗布したくなるかもしれませんが、傷のある肌には刺激が強すぎ、炎症(赤み)を悪化させるリスクがあります。この時期は余計なことをせず、ワセリン等でシンプルに守ることに徹するのが正解です。
攻めの治療における医療機関と市販品の境界線
市販品でのケアは非常に有用ですが、その限界と役割分担を理解しておくことも重要です。日本の薬機法において、一般に購入できる化粧品や医薬部外品は、安全性を最優先に設計されており、作用が緩和であるため「予防」や「現状維持」が主な目的となります。
もし、かさぶたが取れた後に強い戻りジミが出てしまい、それを早期に改善したいと望む場合は、医療機関でのみ処方が許可されている医薬品や、医師の管理下で使用する高濃度製剤に頼る方が合理的です。例えば、強力な漂白作用を持つハイドロキノンは、市販の化粧品にも配合されていますが、その多くは安全性と保存安定性を優先した処方設計(安定型ハイドロキノンや低濃度配合など)となっています。
一方、クリニックでは4%以上の高濃度製剤や、浸透性を高めた製剤が医師の診察に基づいて処方されます。また、皮膚のターンオーバーを強制的に促進するトレチノイン(レチノイン酸)などの強力な外用薬も、医療機関でしか入手できません。
日々の保湿やマイルドな美白ケアは市販品で行い、トラブルが起きた際や、より高い効果を求める際にはクリニックの力を借りる。このように、自身の目的と肌状態に合わせて、市販品と医療機関を使い分けるハイブリッドなケアこそが、現代における美容医療との上手な付き合い方といえるでしょう。
炎症後色素沈着は失敗ではない 1ヶ月後の戻りジミへの正しい対処法
シミ取りレーザー治療において、患者が最も不安を感じる瞬間の一つが、施術から約1ヶ月が経過した頃です。かさぶたが取れて一度はきれいなピンク色の肌が現れたにもかかわらず、数週間経ってから再び施術前と同じような、あるいはそれ以上に濃い茶色のシミが浮き出てくることがあるからです。
多くの人はこれを「治療の失敗」や「再発」と捉えて落胆しますが、これは医学的に炎症後色素沈着(PIH)と呼ばれる現象であり、皮膚の治癒過程において高い確率で発生する生理的な反応の一種です。このメカニズムを正しく理解していれば、不必要な不安を抱くことなく、冷静に対処することが可能です。
ここでは、なぜ一度消えたシミが戻ってくるのかという疑問に答えつつ、その後の経過と具体的な解決策について解説します。
戻りジミはなぜ起こるのか 日本人の肌質と不可避な生理現象
戻りジミ、すなわち炎症後色素沈着(Post-Inflammatory Hyperpigmentation:PIH)は、レーザーによる熱エネルギーを受けた皮膚が、そのダメージから回復しようとする過程で過剰にメラニンを作り出してしまう現象です。単純な例として、転んで膝を擦りむいた際、傷が治った後にしばらく茶色い跡が残るのと全く同じ原理が顔の皮膚で起きています。
特に日本人のような黄色人種は、欧米人の白人種と比較してメラノサイト(色素細胞)の働きが活発であるため、レーザーのような強い刺激に対して敏感に反応し、PIHを発症しやすい傾向にあります。発生率は使用するレーザー機器や照射設定、患者のスキンタイプによって異なりますが、従来型のレーザー治療などでは30%から50%程度の確率で生じるとも言われており、決して珍しいことではありません。
この現象は通常、照射から3週間から4週間後に出現し始めます。かさぶたが取れた直後の肌は、まだ未熟で炎症が残っている状態です。表面的にはきれいに見えても、皮膚内部では炎症を鎮めようとする活動が続いており、その副産物として一時的にメラニンが増産されます。
したがって、この時期に色が濃くなることは、肌が正常に治癒機能を発揮している証左でもあり、決して治療が失敗したわけではありません。重要なのは、これが一時的なトンネルであることを理解し、焦って追加のレーザーを当てたり、過度なケアで刺激を与えたりしないことです。
色素沈着が現れた場合の選択肢 経過観察と早期介入のロードマップ
戻りジミが現れた場合、その対処法は大きく分けて「自然経過を待つ保存的ケア」と「医療機関による積極的治療」の2つのルートが存在します。自身のライフスタイルや、いつまでに肌をきれいにしたいかという期限に合わせて選択することが推奨されます。
自然治癒力を待つ
一つ目のルートは、肌の自然治癒力を信じて待つ保存的ケアです。炎症後色素沈着は、あくまで一時的な反応であるため、新たな刺激を与えなければ時間の経過とともに自然に消失していきます。個人差はありますが、通常は発生から3ヶ月から半年程度かけて徐々に色が薄くなり、周囲の肌色となじんでいきます。
ただし、摩擦などの物理的刺激が加わり続けると1年以上長引くケースもあるため、徹底した遮光(紫外線対策)と保湿、そして摩擦防止が絶対条件となります。
医療機関で適切な処置
二つ目のルートは、医療機関で適切な処置を受け、消失までの期間を短縮する積極的治療です。「半年も待てない」「仕事の都合で早く治したい」という場合はこちらを選択します。
具体的には、メラニンの生成を抑えるトラネキサム酸やビタミンCの内服薬を服用したり、肌のターンオーバーを促進するトレチノインやハイドロキノンといった外用薬を使用したりします。また、微弱なパワーでレーザーを当てるレーザートーニングなどが提案されることもあります。
以下の表に、それぞれのプランの特徴をまとめました。
| 選択プラン | 主な対処法 | 改善までの目安期間 | メリット・デメリット |
|---|---|---|---|
| 保存的ケア(様子見プラン) | ・徹底した遮光 ・保湿 ・摩擦防止 |
約3ヶ月〜6ヶ月(摩擦等の刺激により長期化する場合あり) | メリット:追加費用がかからない デメリット:改善までに長い時間を要する |
| 積極的治療(早期改善プラン) | ・内服薬(トラネキサム酸等) ・外用薬(ハイドロキノン等) ・トーニング治療 |
約1ヶ月〜3ヶ月(症状による) | メリット:比較的早く色が薄くなる デメリット:通院や薬剤の費用が発生する |
どちらのプランを選択する場合でも、自己判断で「再発したからもう一度強いレーザーを当ててほしい」と希望することは避けてください。
炎症が起きている部位にさらに強い熱を加えると、色素沈着が悪化し、消えにくい強固なシミへと変化してしまうリスクがあります。肌の状態を正しく診断できる医師の指導の下、適切なアプローチを選ぶことが、遠回りのようでいて最も確実な近道です。
施術後の日常生活における疑問を解決!メイク・マスク・トラブルQ&A
ここまで、シミ取り治療後の皮膚生理学的な変化や、推奨されるスキンケア成分について解説してきました。しかし、実際の生活に戻ると「明日の仕事にはメイクをして行っても良いのだろうか」「マスクをしていれば日焼け止めは省略できるのではないか」といった、より具体的で実践的な疑問に直面することが多々あります。
これらの些細な行動の積み重ねが、最終的な治療結果に影響を及ぼすことも少なくありません。ここでは、多くの患者から寄せられる頻度の高い質問に対し、ダウンタイム中の肌を守り抜くための正解をQ&A形式で解説します。日々の生活習慣における判断基準としてお役立てください。
Q1.テープの上からやテープなしでのメイクはいつから可能か
施術後のメイク開始時期については、使用したレーザー機器やクリニックの方針によって多少の差異はありますが、多くのガイドラインにおいて、施術翌日からのメイクが可能とされています。
まず、Qスイッチレーザーなどで保護テープを使用している場合、テープの上からであれば直後からファンデーションやコンシーラーを使用しても問題ありません。テープ自体が物理的なバリアとなり、化粧品の成分が直接傷口に触れることを防いでくれるためです。
一方、ピコスポットなどでテープ保護を行わない場合も、翌日からメイクが可能であるケースが大半です。施術箇所にはマイクロクラスト(細かいかさぶた)が形成され始めており、これが天然の絆創膏の役割を果たします。ただし、ここで最も注意すべき点は「メイクをする時」ではなく「メイクを落とす時」です。
ウォータープルーフのリキッドファンデーションなど、カバー力の高い化粧品を使用すると、それを落とすために強力なクレンジング剤や、物理的にこするという動作が必要になります。第2章で触れた通り、摩擦は色素沈着の最大のリスク要因です。
そのため、かさぶたが完全に取れるまでの期間は、石鹸やお湯だけで簡単にオフできるミネラルコスメや、パウダータイプのファンデーションを使用することが推奨されます。施術部位を隠したい気持ちは理解できますが、肌への負担を最小限に抑えることを優先してください。
Q2.マスクを着用していれば日焼け止めは塗らなくてもよいか
コロナ禍以降、マスクの常時着用が日常化し、「マスクで顔が隠れているから日焼け止めは塗らなくても大丈夫だろう」と考える方が増えています。しかし、これは美容医療の観点からは非常に危険な誤解です。
一般的な白い不織布マスクは、飛沫感染を防ぐためのものであり、紫外線を遮断する機能は完全ではありません。研究データによると、一般的な不織布マスクの紫外線防御指数(UPF)は5〜10程度と低く、紫外線の10〜20%程度を透過させてしまうという報告もあります。特に、シミ取り治療後の皮膚はバリア機能が低下しており、通常よりも紫外線ダメージを受けやすい状態にあるため、わずかな透過光でも色素沈着の原因となり得ます。
さらに、マスクには「摩擦」という別のリスクも潜んでいます。会話や表情の変化に伴ってマスクが動くたびに、繊維が肌表面をこすり、肝斑の悪化や新たな色素沈着(摩擦黒皮症)を誘発する可能性があります。
したがって、マスクを着用する場合であっても、マスクの下には必ず日焼け止めを塗布する必要があります。日焼け止めは紫外線を防ぐだけでなく、マスクの繊維と肌との間の潤滑剤のような役割も果たし、直接的な摩擦ダメージを軽減する効果も期待できます。外出の有無にかかわらず、朝のスキンケアの一環としてUVケアを行う習慣をつけてください。
Q3.赤みが引かない、または痛みが強い場合の対処法は
レーザー照射直後から数日間は、軽度の赤みやヒリヒリとした熱感、あるいは軽いむくみが生じることがありますが、これらは通常の炎症反応の範囲内であり、時間の経過とともに鎮静化していくのが一般的です。しかし、稀に予期せぬトラブルが発生することもあります。
もし、施術から3日以上経過しても赤みが引かないどころか増強している、ズキズキとした強い痛みがある、あるいは黄色い膿のような浸出液が見られるといった症状がある場合は、細菌感染や接触性皮膚炎などの二次的なトラブルが起きている可能性があります。特に、かさぶたを無理に剥がしてしまった後や、不潔な手で触れてしまった後などにこうした症状が現れやすい傾向にあります。
このような異常を感じた際は、自己判断で市販の薬を塗ったり、様子を見続けたりすることは避けてください。対応が遅れると、傷跡が深く残ったり、色素沈着が重篤化したりする恐れがあります。速やかに施術を受けたクリニックに連絡し、医師の診察を仰ぐことが重要です。早期に適切な抗生物質や抗炎症剤を使用することで、トラブルを最小限に抑えることが可能です。
まとめ
シミ取り治療は、レーザーを照射した瞬間がゴールではありません。そこから始まる数ヶ月間の皮膚の再生プロセスを、いかに邪魔せず見守れるかが勝負です。ここで解説した通り、「かさぶた(マイクロクラスト)は天然の絆創膏」であり、「湿潤」と「摩擦防止」こそが最強の薬です。
もし、かさぶたが取れた後に再び色が濃くなる「戻りジミ(炎症後色素沈着)」が現れても、それは日本人の肌質的に起こりやすい生理的なトンネルに過ぎません。失敗だと焦って追加の刺激を与えるのではなく、まずは遮光と保湿を徹底して嵐が過ぎるのを待ちましょう。
ただし、日々のケアで迷いが生じたり、どうしても早く改善したい事情があったりする場合は、一人で悩まず医療機関の力を借りてください。市販品による「守りのケア」と、クリニックによる「攻めの治療」を賢く使い分け、自信の持てる美しい素肌を完成させましょう。
アラジン美容クリニックでは、美容医療および美容皮膚における長年の経験や博士号を持つ知見より、出逢う皆様のお一人ひとりに最適な施術を提供する「オンリーワン」を目指すカウンセリングを実施し、余計な情報や提案をせず、「ウソのない」美容医療で、必要な施術のみをご提案しております。
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