ボトックス注射は、表情ジワの改善や小顔効果を求めて多くの人に選ばれている美容医療のひとつです。しかし、施術後に「眠くなる」と感じる人もおり、不安に思って検索するケースが少なくありません。眠気は副作用なのか、それとも自然な体の反応なのか。
さらに、施術部位によって影響は異なるのか、ここでは、眠気の原因や見極め方、正しい対処法や生活面の注意点まで、専門的な視点で丁寧に解説していきます。

国立熊本大学医学部を卒業。国内大手美容クリニックなどで院長を歴任し、2023年アラジン美容クリニックを開院。長年の実績とエイジングケア研究で博士号取得の美容医療のプロ。「嘘のない美容医療の実現へ」をモットーに、患者様とともに「オンリーワン」を目指す。
ボトックス後に眠くなるのはなぜ?医学的に考えられる原因とは
ボトックス注射を受けたあとに、「妙に眠い」「頭がぼんやりする」と感じた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。しわやエラの改善、肩こりの緩和など、さまざまな目的で使われるボトックスですが、その後に生じる体調の変化に戸惑い、不安を抱く方も少なくありません。
特に眠気については、副作用なのか、それとも自然な反応なのか、判断が難しいところです。この章では、ボトックスと眠気の関係について、医学的な視点からわかりやすく解説していきます。
筋肉の緩和と副交感神経の関係
ボトックス(ボツリヌス毒素)は、神経伝達物質アセチルコリンの放出を抑えることで、筋肉の動きを一時的にブロックする働きがあります。この作用により、表情ジワが目立たなくなったり、肩の張りが軽減されたりするのですが、同時に「筋肉がゆるむ」という変化が体に訪れます。
筋肉の緊張が解けた状態では、自律神経のうち“リラックスモード”を司る副交感神経が優位になりやすくなります。これは深呼吸をしたときや、お風呂に入ってリラックスしたときと同じ反応で、心拍数が穏やかになり、血圧が下がり、身体は「休息しよう」とする方向へと傾いていくのです。
その結果として、自然に眠気を感じやすくなることがあります。特に慢性的に筋肉の緊張を抱えていた人ほど、この変化が大きく、注射後の体のゆるみによって、深いリラックス感とともに眠気が訪れるというわけです。
リラックス状態が眠気を引き起こすことも
人間の体は、極端な緊張から解放されたとき、それまで抑え込まれていた疲労感や眠気が表面化することがあります。これは肉体だけでなく、心理的な作用も関係しています。
たとえば、日常的に眉間に力が入りやすかった人が、おでこへのボトックス施術によって無意識の緊張が解けると、それに伴って心の張りつめも緩和されます。その結果、脳も副交感神経の優位な状態へと導かれ、意識がふっと内側へ向かっていくような、穏やかな眠気を感じるのです。
このような眠気は、疲労やストレスがたまっていた状態に施術が加わった場合に特に起こりやすく、単なる副作用ではなく「心身の回復反応」として現れている可能性もあるのです。
一時的な体調変化としての自然な反応
ここで明確にしておきたいのは、「眠気があるからといって、すぐに副作用や異常を疑う必要はない」ということです。実際にボトックスの主な副作用としては、注射部位の腫れ、内出血、軽度の頭痛や倦怠感などが知られており、「眠気」は医学的には頻出する症状とはされていません。
しかし、だからといって“存在しない”ということではなく、個々の自律神経の働きやその日の体調、施術部位や緊張の強さなどによって、自然と眠くなることは十分に考えられます。
この眠気は多くの場合、施術当日から翌日にかけての数時間程度で自然に治まる軽度の反応であり、心配のいらない範囲です。逆に、強い倦怠感やめまい、吐き気などを伴う場合には、次章で詳しく解説する「医師への相談が必要なサイン」を念頭に置くとよいでしょう。
眠気は副作用?それとも正常な反応?見極めのポイント
前章では、ボトックス注射によって筋肉の緊張が和らぎ、副交感神経が優位になることで眠気が現れる可能性についてご紹介しました。実際、施術後に「なんとなくだるい」「少し眠い」といった感覚を覚える人は一定数います。
とはいえ、こうした体の反応が“副作用”に該当するのか、それとも“正常な反応”として受け止めてよいのかは、患者にとって判断が難しいポイントでもあります。本章では、医学的な観点からその違いを整理しつつ、受診の目安や判断基準について詳しく解説していきます。
副作用と呼ばれる基準はどこにある?
医療の現場において「副作用」とは、治療の目的とは異なる、体に現れる望ましくない反応を指します。ボトックスに関しては、厚生労働省やFDAなどの公的機関が、注射部位の腫れ・内出血・頭痛・倦怠感・一部の筋力低下などを主な副作用として報告しています。
一方で「眠気」は、こうした代表的な副作用リストには含まれていません。ただしそれは「眠気が絶対に起きない」という意味ではなく、報告頻度が低く、通常は軽度かつ一時的であるため、一般的な副作用として分類されていないというのが実際のところです。
実際、ボトックス注射を受けた一部の方から「少し眠くなった」「倦怠感を感じた」という報告は見られます。これは副作用というより、筋肉がゆるみ、副交感神経が優位になることで体が自然とリラックス状態に移行した結果と考えられるため、多くの場合は“正常な生理的反応”とみなされます。
放置しても問題ないケース
眠気を感じたとしても、それが短時間で解消し、日常生活に支障が出ない範囲であれば、基本的に問題ありません。特に施術当日や翌日は、自律神経が敏感になっているため、一時的に眠気や倦怠感を感じやすい状態です。
このようなケースでは、無理に活動しようとせず、静かな環境で体を休めることがもっとも効果的です。水分をしっかりとり、ゆっくり横になるだけで、数時間以内には症状が軽快することが多いでしょう。
また、施術そのものに対する緊張やストレスから解放されたことで、体が“休息”を求めている可能性もあります。こうした反応は副作用ではなく、体の自然な回復プロセスの一部と捉えると安心です。
医師に相談すべきサインとは?
とはいえ、眠気とあわせてある種の症状が出てきた場合には、軽視せず医師への相談が必要です。ボトックスは基本的に安全性の高い治療法ですが、ごくまれに毒素の拡散や神経系への過敏反応によって、重篤な副作用が出ることがあります。
特に以下のような症状が見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- めまいやふらつきが強く、立っていられない
- 吐き気や嘔吐が止まらない
- 筋力の異常な低下やしびれ
- 呼吸が浅くなる、胸が苦しい
- ものが飲み込みにくい(嚥下困難)
- 話しにくい、ろれつが回らない(構音障害)
これらはごくまれではあるものの、ボツリヌス毒素の作用が意図せず広がった可能性もあるため、放置せず専門医の判断を仰ぐことが大切です。
肩やおでこの施術で眠気に差はある?部位別の影響と体感の違い
前章では、ボトックス後の眠気が主に筋肉の緩和や副交感神経の活性化による自然な生理反応であることをご説明しました。では、その眠気は施術を行う「部位」によって違いがあるのでしょうか?
たとえば、額と肩。どちらもボトックス注射でよく選ばれる部位ですが、施術後に感じる体の変化には微妙な差が存在します。ここでは、作用する筋肉や神経の違いをもとに、それぞれの部位がもたらす眠気の出方や特徴を詳しく解説します。
施術部位 | 主な対象筋肉 | 神経の特性 | よく見られる体感 |
---|---|---|---|
おでこ | 表情筋(前頭筋・皺眉筋) | 感覚神経が密集、敏感 | 鈍痛、重さ、表情の違和感 |
肩 | 僧帽筋 | 自律神経の影響を受けやすい | 脱力感、深いリラックス、眠気 |
表情筋と僧帽筋の作用する筋肉の違い
ボトックスが作用する筋肉は、施術部位によって大きく異なります。額への注射では、主に前頭筋や皺眉筋といった表情筋がターゲットとなります。これらは浅層に位置し、非常に繊細な動きと豊富な感覚神経の支配を受けているため、施術後に軽い違和感や鈍痛、重さを感じることがあるのが特徴です。
一方、肩への施術で対象となるのは僧帽筋と呼ばれる大きな筋肉です。この部位は、日常生活で常に緊張状態にあることが多く、血流も滞りやすいため、ボトックスによって緩和されると、全身がふわっと軽くなるような深いリラックス感が得られることがあります。
この筋肉の種類と神経支配の違いこそが、「眠気の感じ方」にも影響を与えているのです。
肩ボトックスと深いリラックス
近年では、僧帽筋へのボトックス注射は「TrapTox(トラップトックス)」という名称で美容業界でも注目を集めています。肩こりの軽減だけでなく、首元をすっきりと見せる効果や、巻き肩改善、小顔の補助としても利用されており、特にPC作業などによる慢性的な緊張に悩む方に人気のある施術です。
TrapToxの特徴は、筋肉の深部まで脱力させることで、施術後に深い呼吸がしやすくなり、体が自然と副交感神経優位に切り替わることです。その結果、思わずまどろむような眠気を感じることも少なくありません。
このような眠気は決して異常ではなく、むしろ、筋肉の過緊張から解放された反動としての“正常な癒しのサイン”と受け止めてよいでしょう。
頭部施術による神経刺激の可能性
一方で、おでこへのボトックス注射は、額のしわを目立たなくする目的で行われることが多く、効果は表情筋にとどまります。顔面には知覚神経が密に張り巡らされており、神経が非常に敏感な部位であるため、眠気というよりは「圧迫感」「違和感」「軽い頭痛」などを感じる人が多い傾向にあります。
施術後に眠気を訴えるケースもまれにありますが、肩ボトックスのような深部の筋弛緩による自律神経への大きな作用は比較的少ないとされており、眠気が生じる確率は低めです。
実は関係している?眠気以外の軽度な体調変化にも注意を
前章では、部位ごとの筋肉や神経の違いにより、ボトックス施術後に感じる眠気の出方に傾向があることをご紹介しました。肩のように全身の緊張を緩める部位では、特にリラックス作用が強まり、副交感神経の影響で眠気を感じやすいことがわかっています。
しかし、体の反応は眠気だけにとどまりません。施術後の一時的な倦怠感、違和感、あるいは「なんとなく体が重い」といった漠然とした体調の変化を訴える方もいます。これらは副作用ではなく、体が環境変化に適応しようとする過程で見られる自然な反応であることが多いのです。
体調変化の種類 | 状態の傾向 | 推奨される対応 |
---|---|---|
軽い眠気・倦怠感 | 翌日までに自然に改善する傾向 | 水分補給・安静・様子見でOK |
軽度の筋肉痛・違和感 | 注射部位周辺に限局 | 無理せず生活、2〜3日で改善傾向 |
倦怠感が強く継続 | 3日以上続く・悪化傾向 | 医療機関への相談が望ましい |
吐き気・めまいなど | 他の神経症状を伴う | 即時に受診を検討 |
ここでは、そうした軽度な体調変化の種類とその見極め方、そしていつ医師に相談すべきかの目安について、専門的な視点から丁寧に解説します。
倦怠感・だるさ・違和感も出ることがある?
ボトックスは神経筋接合部に作用し、筋肉の緊張を和らげることでさまざまな美容・医療的効果をもたらします。ただし、それは体にとって“新しい状態”であり、ときに軽い混乱を引き起こすこともあります。
その代表的なものが、倦怠感やだるさといった非特異的な症状です。筋肉がゆるみ、神経伝達のパターンが変わることで、施術直後に少し体が重く感じたり、やや頭がぼんやりするような感覚が出ることがあります。また、注射部位に軽い筋肉痛のような違和感を覚える方もいます。
これらの反応は、施術後の神経・筋肉系の“再調整”の一環であり、多くは1〜2日以内に自然におさまるものです。
不安にならず様子を見るべきライン
軽い眠気や倦怠感は、多くのケースで施術翌日までには解消され、日常生活にも支障をきたしません。実際、厚生労働省の添付文書や海外の臨床データでも、これらの症状は「一過性」「軽度」「経過観察でよい」とされています。
以下のような状態であれば、基本的には自宅で安静にしながら様子を見て問題ありません。
- 眠気やだるさがあるが、日常生活は送れる
- 注射部位に軽い筋肉痛があるが、触れたり動かすとやや気になる程度
- なんとなく「重だるい」感覚があるが、時間とともに軽減傾向にある
こうした体調の揺らぎは、ボトックスが作用し始めた“サイン”として理解することもできます。体が新たな緊張バランスに順応しようとしているため、一時的な不調が出るのは決して不自然なことではありません。
数日以内に改善されない場合の行動指針
一方で、これらの軽微な体調変化が数日経っても明らかに改善しない場合や、日ごとに悪化している場合には、医師への相談が必要です。以下のようなケースは、ボトックスの影響が過剰に出ている可能性や、別の体調要因が関与していることもあります。
- 倦怠感が3日以上続き、生活に支障をきたす
- 筋肉痛のような症状が注射部位から周囲に拡がっている
- 頭痛・吐き気・めまいなどが強くなっていく
- 気分の落ち込みや集中力の低下が長く続く
これらの症状が見られた場合は、施術を担当した医師に連絡し、必要に応じて再診を受けることが望ましいです。
眠気が不安な人のための事前対策とは?
これまででは、ボトックス施術後に現れる眠気や軽度な体調変化について、医学的背景や部位ごとの違いを踏まえて詳しく解説してきました。多くの場合は一時的で自然におさまるものですが、それでも「施術後に眠くなってしまったらどうしよう」と不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
たとえば、施術当日に仕事や家事などの予定が詰まっていたり、もともと体調に不安があったりする場合には、こうした眠気や倦怠感がより負担として感じられることがあります。
そこでここでは、施術前にできる「眠気対策」や計画の立て方、カウンセリングで伝えるべきポイント、体調管理の具体的な工夫までを網羅的にお伝えします。施術後の不快症状を最小限に抑え、安心してボトックスと向き合うための準備を一緒に整えていきましょう。
スケジュールの調整と余裕ある計画
ボトックス施術自体は短時間で終わるシンプルな処置ですが、その後の体調変化は人それぞれです。特に初めて受ける方や、もともと自律神経が敏感な方は、施術後に眠気・倦怠感・脱力感を感じやすい傾向があります。
そのため、施術日当日は重要な予定や長時間の外出・運転などを避け、できるだけ予定をゆるやかに組んでおくことが望ましいです。
可能であれば、午前〜昼前の時間帯に施術を受け、午後は自宅で静かに過ごせるような一日を計画しておくと安心です。また、翌日に備えて早めに就寝できるようなスケジュールを整えておくのもよいでしょう。
カウンセリング時に伝えるべきこと
ボトックス施術を受ける際には、施術部位やデザインだけでなく、体調面での不安についても事前に医師に相談しておくことが非常に重要です。
特に以下のような方は、カウンセリング時に「眠気が心配であること」を遠慮なく伝えるようにしましょう。
- 過去に注射や薬剤で倦怠感を感じたことがある
- 慢性的な自律神経の乱れや低血圧がある
- 仕事や家事の都合上、施術後に休む時間が確保しづらい
医師側もこうした情報を得ることで、施術後の説明や注意事項に配慮を加えたり、施術時間帯を考慮したりといった対応が取りやすくなります。施術は医師との共同作業である以上、不安を共有することも大切な準備の一つです。
コンディション管理で快適な施術後を迎える
眠気の感じ方には体質だけでなく、施術前後の体調が大きく関わります。とくに以下のような要素は、自律神経の働きや全身の感受性に直結しやすいため、事前に整えておくことが推奨されます。
- 睡眠:施術前日はしっかりと7〜8時間の睡眠を確保
- 食事:朝食・昼食を抜かず、血糖値が安定した状態で施術を受ける
- 水分補給:脱水気味だと倦怠感が強まりやすいため、十分な水分摂取を心がける
- カフェインの摂取:過剰な摂取は一時的な覚醒感をもたらすものの、反動で強い眠気を誘発することも
また、生理中や風邪気味など、いつもと違う体調での施術は、眠気以外の不快症状を助長するリスクもあるため、当日無理をしない判断力も必要です。
まとめ
ボトックス注射後に眠気を感じるのは、神経や筋肉への自然な反応によるものが多く、ほとんどは一時的で心配のいらないものです。ただし、めまいや吐き気などの異常を伴う場合には医師の診察が必要になります。
施術部位によって眠気の感じ方が変わることや、生活習慣の影響もあるため、事前に準備を整えておくことが安心材料となります。正しい理解と対策をもって、美容医療を安全かつ快適に取り入れていきましょう。
アラジン美容クリニックでは、美容医療および美容皮膚における長年の経験や博士号を持つ知見より、出逢う皆様のお一人ひとりに最適な施術を提供する「オンリーワン」を目指すカウンセリングを実施し、余計な情報や提案をせず、「ウソのない」美容医療で、必要な施術のみをご提案しております。
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