妊娠中に免疫力が落ちるのはなぜ?いつまで続くかと安全な整え方を解説

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妊娠中の免疫力低下とは、母体が胎児を異物として拒絶しないために起きる生理的な免疫調節です。妊娠すると「Th2優位」と呼ばれる免疫の再構築が始まり、ウイルス感染症へのバリアが一時的に変化します。この状態は産後3〜6ヶ月かけて緩やかに元のバランスへ戻るとされており、妊娠中ずっと「免疫が弱い」状態が続くわけではありません。

妊娠してから風邪を引きやすくなった、口唇ヘルペスが再発した、歯ぐきが腫れやすくなったという体調変化は、多くの妊婦に共通する経験です。これらは免疫の欠陥ではなく、胎児と共存するための能動的な調節の結果です。

ここでは体調変化の背景にある生理学的な仕組み、時期ごとの免疫プロファイルの変化、安全に取り組める食事・生活習慣の選択肢、そして重症化リスクの高い感染症とワクチンの基本情報を医学的根拠とともに整理します。

 

妊娠中の免疫力低下は生理現象

体調変化の背景を理解するうえで、まず押さえておきたいのは「免疫が落ちた」という表現の正確さです。妊娠すると免疫機能は確かに変化しますが、それは単純な弱体化ではなく、胎児と共存するための高度に制御された再調整プロセスです。

このことを理解するだけで、妊娠中の体調変化への向き合い方は大きく変わります。なぜ体が変わったのかという疑問の答えが、安心の出発点になります。

この章のポイント
・妊娠中の免疫変化は弱体化ではなく生理的再調整
・体調変化は異常ではなく免疫再構築の結果
・受診すべき症状の目安を事前に把握しておく

免疫低下ではなく「免疫の再構築」

妊娠中の免疫変化は「弱くなる」のではなく、「胎児を守るために再構築される」現象です。

免疫には大きく2系統あります。ウイルスや細菌に感染した細胞を直接破壊する「細胞性免疫(Th1)」と、抗体を産生して異物を排除する「液性免疫(Th2)」です。妊娠前はこの2つがバランスを保っていますが、妊娠中は時期に応じてこのバランスが動的に変化します。特に妊娠中期は胎児を保護するためにTh2が優位になり、相対的にTh1の機能が抑えられる傾向があるとされています。

このバランス変化が起きる理由は、胎児を保護するためです。胎児のDNAの半分は父親由来であるため、母体の免疫システムにとって胎児は「半分異物」に相当します。攻撃型(Th1)の免疫が中期に優位のままであれば、胎児を異物として拒絶してしまう可能性があります。Th2系への切り替えは、母体と胎児が共存するために不可欠な能動的調節です。

2010年に米国生殖免疫学会誌に発表されたMorらの研究では、妊娠が単純にTh2優位で一貫するのではなく、3つの免疫学的フェーズで進行することが示されています(Mor G, Cardenas I. American Journal of Reproductive Immunology, 2010)。

着床が起こる妊娠初期と分娩準備に入る後期は炎症が優位な状態、中期は抗炎症的なTh2優位の状態へと、時期によって免疫環境が切り替わるという考え方です。「免疫力が落ちた」という表現は広く使われていますが、正確には「免疫プロファイルが時期に応じて変化している」と理解する方が実態に即しています。

妊娠中に起こりやすい体調変化

妊娠中の免疫再構築によって起こりやすくなる体調変化は、主に5つに分類されます。

風邪やインフルエンザへの感受性が上がることが代表的です。口唇ヘルペスや帯状疱疹の再活性化も、この時期に多く見られます。これらのウイルスは通常、免疫システムが抑え込んでいる状態にありますが、Th1系が抑制されることでウイルスが再活性化しやすくなるためです。

妊娠ホルモンの影響で歯ぐきの血流が増加し、免疫環境が変化することで「妊娠性歯肉炎」と呼ばれる炎症が悪化しやすくなります。日本歯周病学会のガイドライン関連資料でも、妊娠中の歯肉炎悪化と早産リスクとの関連が指摘されています。膀胱炎やカンジダ膣炎の頻度増加も、同じ免疫再構築の文脈で理解できる変化です。

以下の表に、妊娠中に起こりやすい不調と、その背景・対応の目安を整理しました。

症状 想定される原因 一般的な対応 産婦人科相談の目安
風邪・鼻炎 Th1抑制によるウイルス感受性の変化 安静・水分摂取 38℃以上の発熱が24時間以上続く場合
口唇ヘルペス再発 ウイルス再活性化(Th1低下) 抗ウイルス薬(要医師判断) 初発・重症化・目周辺への広がり
歯肉炎悪化 ホルモン変化+免疫再構築 丁寧な歯磨き・歯科受診 出血・腫れが強い場合
膀胱炎 子宮増大・免疫変化 水分補給(自己判断は注意) 排尿痛・頻尿・発熱がある場合
カンジダ膣炎 ホルモン変化・Th2優位 抗真菌薬(要医師処方) かゆみ・おりもの異常が続く場合

症状が1週間以上続く場合や、出血・発熱・腹痛を伴う場合は、必ず産婦人科に連絡することを基本方針としてください。

「免疫力が落ちた」と感じたときの自己判断のポイント

体調変化をすべて「免疫低下のサイン」と捉えて不安がる必要はありませんが、受診の目安を事前に把握しておくことが肝心です。

体温・症状・経過日数の3点を判断の軸にします。37.5℃未満で経過が2〜3日以内であれば、安静と水分摂取で様子を見ることが一般的な対応です。一方、38℃を超える発熱が24時間以上続く場合、強いのどの痛みや呼吸困難が生じた場合、出血・腹痛・胎動の減少などの妊娠直結の症状が加わった場合は、速やかに産婦人科に連絡してください。

口唇ヘルペスや帯状疱疹については、市販のステロイド外用薬を自己判断で使用することは妊娠中は避けるべきです。処方薬の適否を医師に確認してから対処してください。迷ったときは電話相談を活用することが賢明です。

気になる体調変化が出たときは、症状・発症日・体温をメモに残しておくと、産婦人科への電話相談時に状況を正確に伝えることができます。

 

妊娠中に免疫が変化する理由

前章で「免疫の再構築」という概念を押さえたうえで、この章ではその仕組みをより詳しく解説します。妊娠中の免疫変化は偶然に起きるものではなく、胎児を守るために高度に制御された生物学的プロセスです。

Th1/Th2バランスの変化、制御性T細胞の増加、妊娠ホルモンとの連動という3つの軸で整理すると、体の中で起きている変化が立体的に理解できます。

この章のポイント
・Th1/Th2のバランス変化がウイルス感受性を変える
・制御性T細胞が胎児を攻撃しない対象と認識させる
・プロゲステロン・hCGが免疫調節の主要なホルモン

Th1とTh2のバランスシフト

妊娠中期にTh1免疫が抑制されTh2が優位になるバランスシフトが、この時期のウイルス感染症への感受性変化の中心的なメカニズムです。

「Th1(ヘルパーT細胞1型)」はウイルスや細菌に感染した細胞を直接破壊する細胞性免疫を担い、「Th2(ヘルパーT細胞2型)」はB細胞を刺激して抗体を産生させる液性免疫を主導します。妊娠前はこの2つが均衡を保っていますが、妊娠中期にはTh2が優位になり、相対的にTh1の機能が低下するとされています。

なお、近年の生殖免疫学では、この古典的なTh1/Th2モデルに加え、Th17細胞や制御性T細胞(Treg)を含めたより複雑な調節(Th1/Th2/Th17/Tregパラダイム)として理解が進んでいます。

妊娠中期にTh1が抑制されるとウイルス感染した細胞を除去する力が変化するため、ウイルス性感冒やヘルペスウイルスの再活性化が起きやすくなります。一方でTh2が活発になるため、妊娠前にはなかったアレルギー症状が現れたり、既存のアレルギーが一時的に緩和されたりするケースもあります。これは「免疫が弱くなった」のではなく、役割分担が変わった結果です。

以下の表で、妊娠前・妊娠中・産後の免疫要素の状態変化を整理します。

免疫要素 妊娠前 妊娠中 産後(3〜6ヶ月)
Th1(細胞性免疫) 正常〜活発 抑制(相対的低下) 徐々に回復
Th2(液性免疫) 正常 優位(上昇) 徐々に正常化
制御性T細胞(Treg) 少量 増加 減少・正常化
プロゲステロン 月経周期に依存 高値維持 急激に低下

このシフトは妊娠を維持するための必然的な変化であり、意図的に元に戻す必要はありません。

制御性T細胞(Treg)の役割

「制御性T細胞(Treg)」は妊娠中に急増し、胎児由来の抗原を「攻撃しない対象」として免疫系に認識させる働きをします。

Tregは免疫反応が過剰にならないよう抑制する役割を持つ特殊なT細胞です。妊娠中はこのTregが急増することで、父親のDNAを持つ胎児の細胞を「攻撃しない対象」として母体の免疫系に学習させます。このTregによる免疫寛容のメカニズムがなければ、母体の免疫は胎児を異物として排除しようとする可能性があります。

TregはTh1を抑制する過程で、妊娠前から持っていた自己免疫疾患(関節リウマチや甲状腺疾患など)の症状が妊娠中に緩和されるケースがあることも報告されています。ただし産後にTregが急減すると、これらの疾患が悪化する可能性が指摘されています。Tregの増加は「免疫が弱くなった証拠」ではなく、「複雑かつ精巧に調整された状態」にあることを示しています。

ホルモンと免疫の連動

妊娠中の免疫調節は、プロゲステロンとhCGという2つのホルモンの変化と密接に連動しています。

「プロゲステロン」は妊娠維持に不可欠なホルモンであり、子宮内膜の安定化に加え、免疫抑制作用も持ちます。Th1の活性化を抑制し、制御性T細胞の増殖を促進することで、胎児拒絶が起きにくい免疫環境を整えます。妊娠初期から急上昇し、妊娠後期にかけて高値を維持します。

「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」は着床後に絨毛細胞から産生されるホルモンで、つわりの原因としても知られていますが、免疫調節にも関与しているとされています。hCGがTregの機能維持に貢献しているという知見が複数の研究で示されており、妊娠初期の免疫環境の整備に貢献していると考えられています。この連動関係を理解すると、ホルモン変化と体調変化が切り離せない関係にあることが分かります。

体調変化が気になるときは、ホルモン値の確認を含む産婦人科受診で全体的な状況を把握することが最も確実な対処です。

 

妊娠中の免疫変化はいつまで続くか

前章で免疫変化の仕組みを理解したうえで、多くの妊婦が最も気になる「期間」の問いに答えます。妊娠初期から始まる再構築は妊娠期間を通じて段階的に変化し、産後に急速な再調整を経て元のバランスに近づいていくとされています。

時期ごとのプロファイルを把握することで、「今自分の体で何が起きているのか」を俯瞰的に理解できます。

この章のポイント
・免疫変化は妊娠週数によってフェーズが異なる
・産後3〜6ヶ月で緩やかに回復するとされている
・産後の急変は自己免疫疾患の変動にも注意が必要

妊娠初期(〜13週)の特徴

妊娠初期は、免疫のTh2シフトが始まり、切り替えの途上にある時期です。

着床が成立してhCGが上昇する4〜6週頃から、Th2優位への切り替えが始まるとされています。この時期はつわりと重なるため、体調不良の原因がつわりによるものか免疫変化によるものかを区別しにくいのが特徴です。口唇ヘルペスや鼻炎・副鼻腔炎などが初期に発症・再発するケースもあります。

免疫変化はまだ切り替えの途上にあるため症状が出やすい時期でもありますが、中期に向けて安定していく過程でもあります。37.5℃未満の微熱や軽微な鼻水・倦怠感は安静で経過を見ることが一般的ですが、高熱・強いのどの痛み・呼吸苦がある場合は産婦人科に連絡してください。

妊娠中期・後期の免疫プロファイル

妊娠中期(14〜27週)はTh2優位が安定し、比較的体調が落ち着く傾向がある時期です。妊娠後期(28週〜)は炎症性サイトカインが増加し、出産の準備が始まります。

初期の切り替え期を経て、中期は免疫プロファイルが比較的安定した状態になります。体調が落ち着いてきたと感じる妊婦が多いのはこの時期です。ただしTh1抑制は続いているため、ウイルス性感染症への感受性は引き続き変化した状態にあります。

妊娠後期(28週〜)になると、免疫環境が再び変化します。出産に向けて「炎症性サイトカイン」(炎症を促進するたんぱく質の一種)が増加し始め、子宮収縮(陣痛)の準備が整えられます。この変化に伴い後期に歯周炎・膀胱炎などが再び悪化するケースがあります。後期の感染症は早産リスクとも関連するとされているため、不調が長引く場合は速やかに産婦人科に相談してください。

産後の免疫リバウンドと注意点

産後は妊娠中に抑制されていたTh1免疫が急速に回復し、免疫プロファイルが急変します。一般的に産後3〜6ヶ月かけて緩やかに元のバランスへ戻るとされていますが、個人差があります。

この急激な変化を「免疫リバウンド」と呼ぶことがあります。授乳中はプロゲステロンが依然として影響を及ぼすため、完全に元のバランスに戻るまでには一定の期間を要します。産後3〜6ヶ月という期間はあくまで一般的な目安であり、個人差が大きいことに注意が必要です。

産後の急激な変化は、いくつかの点で注意が求められます。妊娠中に症状が緩和していた自己免疫疾患(関節リウマチや橋本病など)が産後に悪化する可能性が指摘されています。産後うつとの関連も研究が進んでおり、免疫系と神経系の連動について知見が蓄積されています(ただし因果関係は研究途上です)。

産後の体調変化を育児疲れだけと判断せず、気になる症状が続く場合は産婦人科や内科に相談することを勧めます。以下の表で、妊娠初期から産後にかけての免疫プロファイルを整理します。

時期 免疫プロファイルの特徴 起こりやすい症状 注意点
妊娠初期(〜13週) Th2シフト開始・切り替え途上 風邪・ヘルペス再発・鼻炎 つわりと区別しにくい
妊娠中期(14〜27週) Th2優位が安定 比較的落ち着く傾向 感染症感受性は継続
妊娠後期(28週〜) 炎症性サイトカイン増加 歯肉炎・膀胱炎の再悪化 早産リスクとの関連あり
産後(〜6ヶ月) 免疫リバウンド・急速な再調整 自己免疫疾患の変動・産後うつ 3〜6ヶ月で緩やかに回復(個人差大)

産後6ヶ月以降も体調の回復を感じられない場合は、甲状腺機能や血液検査を含む受診を主治医に相談してみてください。

 

妊娠中に安全に免疫を整える方法

前章で時期ごとの見通しを立てたうえで、日常で安全に取り組める対策を整理します。「免疫アップ」を謳う情報は多数ありますが、妊娠中は食材・サプリメントの選択に慎重さが求められます。

特別な方法を追い求めるよりも、食事・睡眠・運動・ストレス管理という4本柱を着実に整えることが、医学的見地からも支持されている基本的なアプローチです。

この章のポイント
・特別な方法より生活の4本柱を安定させる
・ビタミンD・亜鉛・葉酸は摂取基準内での確保が基本
・漢方・ハーブサプリは自己判断で開始しない

食事で取り入れたい栄養素

妊娠中の免疫機能を支える栄養素として、タンパク質・ビタミンD・亜鉛・葉酸・発酵食品の5つが挙げられます。それぞれの役割と推奨食材を確認したうえで、妊娠中に避けるべき食材もあわせて把握しておくことが、安全な食生活の土台になります。

積極的に摂りたい主要栄養素

免疫細胞の材料となるタンパク質、免疫調節を助けるビタミンD、細胞性免疫を維持する亜鉛が優先的に確保すべき栄養素です。

タンパク質は免疫細胞(抗体・T細胞・NK細胞)の材料であり、妊娠中は胎児の成長にも必要なため、1日の摂取目標が非妊娠時より引き上げられます。魚・肉・大豆製品・乳製品を毎食意識的に取り入れることが推奨されます。

ビタミンDは免疫調節に関与し、妊娠中の不足が感染症リスクと関連する可能性が指摘されています(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025年版」)。日光浴と鮭・干ししいたけ・卵黄での摂取が基本です。

亜鉛は細胞性免疫の維持に関与し、妊娠中の推奨量は約10mg/日とされています(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025年版」、非妊娠時推奨量+付加量2mg)。牛赤身肉・大豆製品・海苔に多く含まれます。発酵食品(ヨーグルト・納豆・味噌など)は腸内環境を整える効果が期待されており、腸内細菌と免疫系の関連が研究されています。

ただし「免疫アップ」と断言できる根拠は限定的であり、バランスの取れた食事の一部として位置づけることが適切です。以下の表に、主要栄養素と推奨食材・注意点を整理しました。

栄養素 妊娠中の役割 推奨食材 注意点
タンパク質 免疫細胞の材料・胎児成長 鶏肉・豆腐・卵・魚 生食は避ける
ビタミンD 免疫調節・骨形成 鮭・干ししいたけ・卵黄 サプリ使用時は過剰摂取に注意
亜鉛 細胞性免疫の維持 牛赤身肉・大豆製品・海苔 牡蠣は生食を避ける
葉酸 細胞分裂・神経管閉鎖障害予防 ほうれん草・枝豆・納豆 妊婦向けサプリの活用を推奨
発酵食品 腸内環境の整備 ヨーグルト・味噌・納豆 ナチュラルチーズはリステリア注意

食材選びに迷ったときは、次回の健診時に管理栄養士や産婦人科医に確認することが確実です。

妊娠中に避けるべき食材

免疫力を支える食材を選ぶ一方で、妊娠中は感染リスクの高い食材への注意も求められます。

リステリア菌のリスクがある生ハム・ナチュラルチーズ・スモークサーモン、メチル水銀が蓄積しやすいキンメダイ・メカジキなどの大型魚、生肉・生魚によるトキソプラズマ感染リスクには特に注意が必要です。

「免疫力のために食べた食材」が思わぬリスクを生じさせることを防ぐため、食材選びの段階でも慎重な判断が求められます。

睡眠・運動・ストレス管理

食事と同等に欠かせないのが、睡眠・運動・ストレス管理の3つです。これらは免疫機能の維持と直接的に関連することが知られています。

睡眠は免疫細胞の産生と修復に直結しており、慢性的な睡眠不足は炎症性サイトカインの増加と関連することが知られています。妊娠中は7〜8時間の睡眠を目標にし、子宮の大血管圧迫を避けるために左側を下にした横向き寝を取り入れることが推奨されます。後期になるにつれて寝姿勢の工夫が必要になるため、抱き枕の活用も有効です。

運動については、マタニティヨガやウォーキングが広く推奨されています。適度な有酸素運動はNK細胞(自然免疫のキラー細胞)の活性と関連するとされており、週3〜4回・30分程度のウォーキングが現実的な選択肢です。ただし切迫流早産の診断がある場合は主治医の指示に従い、安静が必要な時期には無理をしないことが大前提です。

ストレスホルモン(コルチゾール)の長期的な上昇は免疫抑制と関連することが知られています。SNSやニュースに触れる時間を意図的に制限し、信頼できる医師や助産師に悩みを相談する機会を設けることが効果的です。「正しい情報を集めなければ」というプレッシャー自体がストレスになっている場合は、情報収集のペースを意識的に落とすことも一つの対処です。

サプリメントの選び方と注意点

妊娠中のサプリメントは種類ごとに安全性の評価が大きく異なるため、一律に「飲んでよい/悪い」とは言えません。

厚生労働省が妊婦への摂取推奨・目安量を定めている「葉酸(妊娠を計画している女性および妊娠初期は通常の食事に加えてサプリメントから400μg/日)」「鉄(妊娠中期以降の推奨量約16mg/日目安)」「ビタミンD(目安量8.5μg/日)」は、妊婦向けに設計されたサプリメントで補完することが医療現場でも一般的に行われています(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025年版」)。これらは産婦人科でも推奨されている成分です。

「免疫力アップ」「体質改善」を謳うハーブサプリや漢方製品は、妊娠中の安全性が十分に検証されていないものが多く、自己判断での開始は避けることが原則です。一部のハーブ成分は子宮収縮誘発や胎盤機能への影響が懸念されており、産婦人科医への事前確認が不可欠です。義母やママ友から善意で勧められた場合も、妊娠中の特殊な状況を踏まえて医師に一度確認してから使用することを勧めます。

サプリを開始する前に「成分表・含有量の確認」「妊婦への安全性の有無の確認」「かかりつけ医への確認」という3ステップを習慣にしてください。

 

重症化リスクの高い感染症とワクチン

妊娠中の免疫変化の仕組みと整え方を理解したうえで、最終章では具体的な感染症リスクとワクチンの選択肢を整理します。

「免疫が変化しているから全部怖い」ではなく、リスクの優先順位を把握することで、注意すべき点と安心できる点を区別することができます。妊娠中という条件を踏まえた判断軸を持つことが、焦らず対処するための基盤になります。

この章のポイント
・妊娠中の感染症リスクには優先順位がある
・不活化ワクチンは妊婦への接種が推奨されている
・産婦人科への連絡が必要なサインを事前に知る

妊娠中に重症化リスクが高い感染症

妊娠中に特に注意が必要な感染症は、重症化リスクと胎児への影響という2つの軸で優先度を整理することができます。

重症化リスクが高いウイルス感染症

妊婦が罹患した際の重症化が特に懸念されるのは、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症です。

インフルエンザは、妊婦が罹患した場合の入院・重症化リスクが非妊娠女性と比較して高いことが示されており、厚生労働省もワクチン接種を推奨しています。新型コロナウイルス感染症についても、妊婦は重症化リスクが高い集団と位置づけられており、日本産科婦人科学会はワクチン接種を推奨しています。

手洗い・換気・人混みの回避といった基本的な感染予防策とあわせて、予防接種を検討することが現実的な対応です。

胎児への影響が大きい感染症

胎児への影響という観点で特に知っておきたいのが、風疹とサイトメガロウイルス(CMV)です。

妊娠初期(特に〜20週)に風疹ウイルスに感染すると、「先天性風疹症候群」として難聴・心疾患・白内障などの先天性障害が生じるリスクがあります。CMVは感染した場合に難聴や神経発達の遅れを引き起こす可能性があり、小さな子供の唾液・尿への接触が主な感染経路とされています。幼い子供の世話をしている妊婦は、手洗いをとりわけ丁寧に行うことが予防の基本です。

食品・環境を介した感染症

リステリア菌とトキソプラズマは、食品や環境を介して感染するリスクに注意が必要です。

「リステリア菌」は生ハム・ナチュラルチーズ・スモークサーモンなどに存在し、妊婦が感染した場合に流産・死産・先天性感染のリスクがあるとされています。「トキソプラズマ」は生肉・土壌・猫の糞便が感染経路であり、先天性トキソプラズマ症のリスクがあります。いずれも食材選びと衛生管理(土いじりの後の手洗い、猫のトイレ処理時の手袋着用など)が予防の基本です。

妊娠中に推奨される予防接種

妊娠中に接種できるワクチンは「不活化ワクチン」に限定されます。生きた病原体を含む「生ワクチン」は妊娠中接種禁忌です。

不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌を死滅または不活化させた成分を使ったワクチンで、生きた病原体を含まないため妊婦への安全性が確認されています。インフルエンザワクチン(不活化)については、日本産科婦人科学会・厚生労働省ともに妊娠のどの時期でも接種を推奨しており、胎盤を通じて胎児にも抗体が移行する効果も期待されています。

新型コロナウイルスワクチンについても、日本産科婦人科学会は妊婦への接種を推奨しています(「COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんへ」日本産科婦人科学会)。

百日咳含有ワクチンについては、新生児への百日咳感染を防ぐ「母子免疫」の観点から、海外では成人用三種混合ワクチン(Tdap)の妊娠後期(27〜36週)接種が広く推奨されています。ただし、日本では成人用Tdap(Boostrix®・Adacel®)は未承認であり、国内で使用できるのは小児用三種混合ワクチン(DTaP/トリビック®)です。2025年に百日咳が国内で記録的に流行したことを受け、日本産科婦人科学会・日本小児科学会・日本周産期新生児医学会は、乳児の重症化予防を目的として妊娠後期の妊婦や乳児に関わる人への百日咳含有ワクチン接種の検討に言及しています。

妊婦への百日咳ワクチン接種を希望する場合は、使用するワクチンの種類・接種時期・国内での位置づけを含め、かかりつけの産婦人科に相談することが必要です。

「免疫が落ちた」と感じたときの受診判断

体調変化が起きたとき、どこに受診すればよいかを事前に把握しておくと、焦らず適切に対応できます。

産婦人科に連絡・受診すべきサインとして、38℃以上の発熱が24時間以上続く、腹痛・出血・胎動の減少を伴う、強いのどの痛みや呼吸困難があるの3点を基本として覚えておいてください。妊娠中の感染症は妊娠週数を考慮した処方が必要なため、原則として産婦人科を第一連絡先とすることが望ましいです。

発熱がなく鼻水・咳だけが続く場合、耳痛・耳閉感がある場合、軽度の結膜炎など妊娠と直接の関連が薄い症状については、産婦人科の紹介のもとで内科・耳鼻科・眼科を受診するという使い分けも一般的です。市販の風邪薬を自己判断で使用する前に産婦人科に電話相談することを習慣にするだけで、不要な薬の使用リスクを防げます。

以下の表で、主な感染症と重症化リスク・予防策・ワクチン接種可否を整理します。

感染症 重症化リスク 胎児影響 予防策 ワクチン可否
インフルエンザ 高(入院リスク増) 早産・低出生体重との関連 手洗い・人混み回避 ○(不活化・推奨)
新型コロナ 高(重症化リスク集団) 早産との関連を指摘 換気・マスク ○(推奨)
風疹 母体は中等度 先天性風疹症候群(重大) 抗体確認・接触回避 ×(生ワクチン・禁忌)
CMV 母体は軽微 難聴・神経障害の可能性 子供の唾液・尿接触に注意 なし
リステリア 母体で重症化の可能性 流産・死産・先天感染 生ハム・ナチュラルチーズを避ける なし
トキソプラズマ 母体は軽微〜無症状 先天性トキソプラズマ症 生肉・土・猫糞便の接触を避ける なし

感染症の症状が出た際には、自己判断で様子を見続けず、まず産婦人科に電話でファーストコンタクトをとることを受診ルールとして決めておいてください。

 

まとめ

妊娠中の免疫変化は病気ではなく、胎児と共存するための生理的な再調整です。産後3〜6ヶ月をかけて元のバランスに戻るとされており、今この変化の中にいることを知ったうえで、日常でできる対処を一つずつ取り入れることが現実的な対応です。

食事ではタンパク質・ビタミンD・亜鉛・発酵食品を意識し、7〜8時間の睡眠確保とマタニティヨガ・ウォーキング程度の運動を継続します。インフルエンザや新型コロナの不活化ワクチン接種については産婦人科で時期を相談し、漢方・ハーブサプリの自己判断での開始は避けてください。

体調変化が続く場合や、発熱・腹痛・出血を伴う症状が出た場合は、まず産婦人科に連絡することを習慣にしてください。免疫変化に関する個別の不安については、次回の健診時に担当医に直接相談することが最も確実な対処です。

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参考文献・出典

  • Mor G, Cardenas I. “The Immune System in Pregnancy: A Unique Complexity.” American Journal of Reproductive Immunology, 63(6): 425-433(2010年)
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
  • 日本産科婦人科学会「乳児の百日咳予防を目的とした百日咳ワクチンの母子免疫と医療従事者への接種について」(2025年4月25日)
  • 日本産科婦人科学会「COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんへ」

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